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閑話:助ける者と助けられた者

「ガサ入れだー!!」

「騎士団だ! 逃げろ、裏口へ回れ!」


 怒号と悲鳴が地下の湿った空気を引き裂き、奴隷商館の地下は一瞬にして混沌の渦に叩き落とされた。重い鉄靴の音が床を打ち鳴らし、松明の炎が壁を不気味に揺らす。


 私が閉じ込められていた檻の前を、屈強な騎士たちが風のように駆け抜けていった。それがグランヴィル侯爵家の、王国でも指折りの精鋭たちだと知ったのは、すべてが終わった後のこと。逃げ惑う商人たちは、熟練の騎士たちの手によって次々と床に組み伏せられ、抵抗する間もなく無様に捕らえられていく。


(……終わる。やっと、この地獄が終わるんだ……)


 私は冷たい檻の隅で膝を抱え、ただ嵐が過ぎ去るのを待っていた。絶望に慣れきったこの瞳に、解放への淡い期待と、それを上回る「次はどうなるのか」という底知れない恐怖が入り混じる。


 そんな喧騒の真っ只中を、一人の少年が静かに割って現れた。

 怒号が飛び交い、荒々しい男たちが入り乱れる戦場のような場所だというのに、彼はまるで手入れされた庭園を散歩でもするかのように、悠然とした足取りで歩いてくる。


 彼は私の檻の前で足を止めると、ゆっくりとその場に視線を落とした。


「俺はカイト、グランヴィル侯爵に連なる者だ。

 ……怖かったな。でも、もう大丈夫だ。もう少しだけ、待っててくれ」


 その声を聞いた瞬間、私は呼吸を忘れて彼を凝視した。

 見かけは私とさほど変わらない少年の容姿。それなのに、その瞳には夜の海のような深い静寂があり、纏う空気には何十年、あるいはそれ以上の時を重ねた賢者のような、圧倒的な落ち着きがあった。


 そして何より、エルフである私の五感を戦慄させたのは、彼の内側から溢れ出す魔力だった。

 自然と共に生きる私たちエルフを遥かに凌駕し、底が見えないほどに濃密で、かつ極限まで澄み渡った魔力の奔流。そんな力を持っているのに、彼はそれを誇示することなく、ただ優しく私を包み込んでいた。


「もう少し」。

 カイト様のその一言は、呪文よりも深く私の魂に届いた。

 暗闇と寒さの中で凍りついていた私の心が、春の陽光に触れた雪のように、驚くほど自然に溶かされていく。


 この人は、ただの救出者ではない。

 この人なら、この檻よりもずっと暗く深い、私の心にこびりついた絶望からさえも、本当に連れ出してくれるに違いない。


 私は震える唇を噛み締めながら、真っ直ぐにカイト様を見つめ返した。頬を伝う熱い雫の向こう側で、生まれて初めて抱く「安心」という名の温かな感情が、静かに、だが決して消えない灯火のように私の胸に芽生えていた。

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