第七十七話:騎士団の洗礼と、影差す理想郷
領都に到着すると、オズワルドの血が騒ぎ出した。豪華な馬車から降りるやいなや、出迎えた騎士たちを指差して吠える。
「よし! カイト、まずは我が騎士団の練度を見せてやる。そしてお前の腕、この地を預かる者たちに刻み込んでやれ!」
疲れも癒えぬまま、カイトは騎士団の演習場へ連行される。
「皆の者久しいな!」
オズワルドの声に傅く騎士たち。
「元気な姿を再び見られるとは……」
熊のような巨体と戦場の傷を刻んだ猛者が立ち上がる。
「バルトスよ、そこに居るカイトのお陰でこの通りだ」
オズワルドは近くにあった訓練用の両手剣を片手で軽々と上げた。
「そちらにいらっしゃるのが、カイト様……」
バルトスがカイトを見る。
「早速だが、騎士団の力を見せたい。
バルトスよ、カイトと模擬戦をしてほしい」
「よろしいので?」
「ああ、手加減なしでいいぞ」
オズワルドが笑った。
模擬戦が始まる。
カイトは従魔たちの進化により、人間の域を超えた身体能力を発揮。バルトスの大剣を最小限の動きで受け流し、鋭い踏み込みで間合いを詰める。
「……ほう、若君。甘い顔をしているが、剣筋は冷徹極まるな!」
バルトスは長年の経験でカイトの超常的スピードをいなし、互角の攻防の時間は一時間を超えた。
やがてカイトが疲れの見え始めたバルトスを見て出力を上げると、片手でバルトスの大剣を弾き飛ばす。
「……参りました。これほどの腕を持つカイト様がいれば、グランヴィル家の未来は盤石ですな」
騎士団長が笑い、
「旦さん、あっという間に騎士たちを手懐けよったな。やはり脳筋は力を見せれば一発よ……」
影からその様子を見ていたランバは、鼻を鳴らして感嘆する。
その後、牧場で従魔たちを自由に走らせていると、黒燕尾服を纏った代官兼家令のセバスが姿を現す。
「オズワルド様、マリー様。再びそのご尊顔を拝することができ、これ以上の喜びはございません」
オズワルドとマリーは感謝を伝えるが、セバスの表情には微かな陰りがあった。
「セバス、何か変わりはないか?」
「……大きな変事はないのですが、近頃、エルフを奴隷にしようとする者たちが暗躍しております」
オズワルドの眉が厳しく寄せられる。
「我が領地の一部にはエルフの集落があるのだ。奴らは古くから我々を信頼してくれている大切な民だが……」
「奴らの美しさゆえ、古来より奴隷にしようとする不逞の輩が絶えぬのです。連中は『黒い市場』を拠点に集落を襲っています」
オズワルドとセバスの言葉にカイトの瞳に冷たい光が宿る。
「……お爺様、お婆さま、そして俺たちの休みを邪魔する者が、ここにもいるようですね。お爺様、少し動く許可をいただけますか?」
オズワルドはニヤリと笑い、力強く頷く。
「ランバ、頼むよ」
「はいな!」
ランバは領都の裏路地へ向かう。
以前配置していた「ヒドゥンラット」から情報を得て、ネズミの導きで密偵たちの隠れ家に接近。
コックロたちを放出し、書類や隠し部屋を特定させる。
ランバがまとめた報告をカイトに提出すると、オズワルドの目に鋭い怒りが宿る。
「……なるほど、根は深そうだな。カイト、騎士団を動かす。お前も指揮を学べ」
クラリスは即座に参加を希望。
「お嬢様、これはピクニックじゃないんですよ?」
「分かっておりますわ! ですが……カイトが一緒なら、大丈夫でしょう?」
カイトは小さく息を吐き、決断する。
「……分かったよ。ランバたちもいるし、ルーヴも居る。俺も守るが……」
オズワルドの号令で、領地は一転、悪を断つ戦場へと変わる。
現場で回収した書類から、裏には王都の大使館を拠点とする他国密偵の関与が判明。
「お爺様。これは単なる犯罪ではなく、国家の根幹を揺るがす工作です」
「ふむ。領地だけの問題では済まんな」
カイトは即座に決断する。
「アウラ、来い!」
黄金のグリフォンにカイト、オズワルド、ランバが乗り込み、通常数日かかる距離を数時間で王都へ飛翔した。
王の許可を受け、最強の掃除人たちが街へ解き放たれる。
「ランバ、いくぞ。王都にまた邪魔者が湧いた。領地での休暇を邪魔されたんだ、利息をつけて返す」
「へへっ、旦さん。準備は万端。コックロたちも獲物がデカいって喜んでますわ」
王宮から借り出した騎士団で表通りを封鎖する中、カイトとランバは影から密偵の拠点を潰していく。
暗い路地裏。逃げる密偵の首筋にカイトの刃が冷たく添えられる。
「……お前たちが『ハエ』と呼ばれた理由、まだ理解していなかったようだな。次はもう二度と飛べぬよう、羽も手足も毟ってやる」
王都の夜を徹して行われる、容赦なき「ハエ叩き」。
平和な旅行を邪魔されたカイトの怒りは、密偵たちにとって死神の鎌よりも冷酷なものとなった。




