第七十六話:猛将の帰還と、大領地への旅路
「ええい、やかましいわ! 我が孫が我が騎士団に入らずして、どこへ行くというのだ! それにカイトはクラリスの従者を続けなきゃならん。どこの馬の骨とも分からん団長の下になど、一歩も出せん!」
アカデミーの廊下に響き渡ったオズワルドの咆哮に、勧誘員たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていった。
それを見送りながら、カイトはふと疑問を口にする。
「……そういえば、グランヴィル侯爵家って独自の騎士団があったんですね」
「何を言うか。我が領地は国境にも接しておるのだぞ? 防衛のために数千の精鋭を抱えておるわ。……ただ、儂が膝を痛めて以来、王都に留まりきりでな。代官に任せきりにしておったが……」
オズワルドは、カイトの治療で完治した自分の脚を力強く叩いた。
「そうだ! 前期試験も終わり、アカデミーも休みになるだろう? ならば、久々に我が領地へ戻るぞ! カイト、お前の初お披露目だ。クラリスも、そしてマリーも一緒にな!」
さも当然というように、オズワルドは高らかに宣言した。
「……という話なんだが。クラリス、どうする? 休みはメスチノに帰って屋敷でゆっくりしてもいいんだが」
カイトの問いに、クラリスは瞳を輝かせ即答する。
「当然行きますわ! グランヴィル侯爵領といえば、この国最大の面積を誇るだけでなく、当主不在の間も完璧な統治が行われていると噂の場所ですもの。その謎をこの目で見ない手はありませんわ!」
こうして、一行はグランヴィル侯爵領への旅路に出発することになった。
豪華な馬車にはカイトとクラリス、そしてマリー。御者台には当然のようにランバが潜み、馬車の周囲を巨大なグレートウルフが悠々と並走する。さらに上空にはアウラが黄金の翼を広げ、護衛と偵察を兼ねて舞っていた。
「……カイト様、見てください! 領地の境界に入った途端、道が綺麗に整備されていますわ」
「ええ。それに、すれ違う領民たちの顔に活気がありますね。お爺様が不在でも、法と秩序が隅々まで行き渡っている証拠です」
馬車の中でカイトは、流れる景色を眺めながら、自らのルーツであるこの広大な土地に想いを馳せる。
「さて……。この『素晴らしい統治』の裏に何があるのか。それとも、単に代官が優秀なだけなのか。楽しみですね」
猛将の帰還を待つグランヴィル領。
そこには、王都での騒動を上回る、カイトの「規格外」さを試すような出来事が待ち受けているのだった。




