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第七十五話:放蕩王子の覚醒と、望まぬ栄誉

 数日後、アカデミーに激震が走った。

 追試の結果が掲示されるやいなや、万年最下位近辺だったエドワード王子が、並み居る秀才を抜き去り、学年三位という驚異的な成績に食い込んだのだ。

 王宮ではアルフレッド王が感涙に咽び、すぐさまカイトを呼び出した。

「カイトよ、よくぞやってくれた! エドワードの奴、あれから女遊びを一切辞め、取り憑かれたように机に向かっておる。あれは一体どんな魔法を使ったのだ?」

「……魔法なんて使いませんよ。エドワード殿下は、もともとやればできる方だったというだけです。やらなければ何の意味もありませんが」

 相変わらず素っ気ない報告だが、王にとっては十分だった。


 王は続ける。

「その功績、並大抵ではない。カイト、貴殿に騎士爵ナイトを授与する! グランヴィル侯爵家の孫としてではなく、カイト個人への褒美だ」

「……騎士、ですか」

 カイトは内心で「また面倒な肩書きが増える」と溜息をついた。しかし屋敷に戻った後の反応は、まるで正反対だった。

「おお! カイト、ついに騎士か! よくやった、これで名実ともに我が家を背負って立つ男だな!」

 オズワルドは肩を壊さんばかりに叩き、マリーは目元をハンカチで押さえて喜ぶ。

「本当に……嬉しいわ。カイトさんが立派な騎士様になるなんて。これでクラリスとの『立場』も、より確固たるものになりますね」

「おばあ様、何を仰っていますの! ……でも、おめでとう、カイト。私の騎士様が本当に陛下から認められるなんて、鼻が高いですわ!」

 クラリスは少し誇らしげに、そして照れくさそうにカイトを見上げる。

 カイトは、自分を囲む「家族」の喜ぶ姿を見て、拒絶するのは無粋だと悟った。


 後日、カイトがエドワード王子の元を訪れると、淫靡な空気は微塵もなかった。

 本が山積みになった机で、王子は真剣な眼差しで古文書を読み解いている。

「……不遜な教師のお出ましかな」

「殿下、見違えました。本当に女遊びを辞めたのですね」

 王子は苦笑する。

「やりたいことが見つかっただけだ。君に言われた通り、知識は力になる。……私は王宮の歪みを正す力が欲しい。君に説教されて、自分がどれほど空虚なことに時間を使っていたか、ようやく理解できた」

 その瞳は、かつての濁りが消え、一点の曇りもない覚悟を宿していた。



「騎士爵、拝受したそうだね。おめでとう。これからは『カイト卿』と呼ばねばならんかな?」

 王子がニヤニヤと笑いながら

「やめてください、背中が痒くなります」

「ははは! 変わらんな。だが、これだけは言っておく。私は君を、生涯の友であり、師だと勝手に思わせてもらうよ」

 こうして、カイトの不本意な「功績」は、王家に一人の賢明な王子を誕生させた。

 しかし同時に、カイトが望んでいた「ただの従者」という立場は、さらに遠ざかることとなったのである。


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