表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/115

第五十四話:説教と正座

「お嬢様も、あるじの香りに包まれてみませんか? 心が安らぎますよ」

 ルーヴはカイトの顔を胸元に沈めたまま、さらに悪乗りを加速させた。空いた片腕をクラリスへ差し出し、あろうことか「こちら側」へ引き込もうと誘惑の言葉を口にする。

「な、ななな……何を破廉恥なことを! 誘わないでくださいまし! ……い、いえ、でも、安らぐというのは一理ありますわね。……って、私まで何を言ってますの!」

 混乱の極みに達したクラリスが、恥ずかしさと好奇心の間で悶絶していると、ついに限界に達した「獲物」が動いた。

「……いい加減にしろ」

 カイトがルーヴの腕を強引に振りほどき、立ち上がる。その周囲には、普段の冷静さを超えた絶対零度の冷気が漂う。

「全員、そこに座れ」

 その一言には、有無を言わせぬ支配者の響きがあった。


 数分後。寄宿舎の床には、三人の美女(?)が神妙な面持ちで正座していた。

 一番左に、人型でしおらしくしているアウラ。

 中央に、狼の手を膝の上に揃えて無表情を貫くルーヴ。

 そして一番右に、お嬢様としてのプライドを捨てきれず、しかしカイトの形相にビビって小刻みに震えるクラリス。

 カイトは教鞭の代わりに丸めた書類を手に、彼女たちの前をゆっくりと往復する。

「まずルーヴ。お前は度を越しすぎだ。主従のスキンシップに『顔を埋める』などという項目はない。次やったら一週間、影から出すのを禁じるぞ」

『……御意。少々、主の弾力が心地よかったもので』


「次にアウラ。お前もだ。ルーヴがやっているからといって、便乗して反対側の腕を引っ張るな。お前は風の眷属だろ。もう少し優雅に振る舞え」

『はーい……お父さん、ごめんなさい』

「そして、クラリス」

「ひ、ひゃいっ!」

 カイトの矛先が自分に向き、クラリスが裏返った声を出す。

「クラリスも、煽られて流されないでください。ここは学校の寄宿舎です。もし誰かに見られたら、メスチノ家の名誉はどうなると思っていますか。もっと自覚を持ってください」

「ううっ……。だ、だって、カイトがとられそうだったんですもの……」


 ひとしきり説教を終えたカイトは、深く溜息をついた。

「反省の色が見えるまで、今夜の夕食は『野菜スティック』のみにします。あとの肉料理は、天井裏のランバに全部あげます」

「「「そんなぁーーーーー!!!」」」

 三人の悲鳴が重なる中、天井裏からは「ヒヒッ! 旦さん、話がわかるわぁ!」とランバの勝ち誇ったような笑い声が聞こえてきた。

「婚約の予約」をしてからというもの、カイトの仕事は護衛や家事よりも、むしろ「幼稚園の先生」に近いものへと変貌しつつあった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ