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第五十三話:おこぼれとスキンシップ

 クラリスの猛烈な抗議を受け、ルーヴはティーポットを置き、静かに銀色の瞳を彼女へ向けた。

「クラリス様。誤解しないでください。私は本心から、主の手伝いをしたいだけなのです」

「……本心? だったら、あんな見せつけるみたいな真似……!」

「主の『メス』はクラリス様であり、私はその下で構いません。ただ……たまに、そう、おこぼれをいただければ……」

 ルーヴが淡々と、しかしどこか艶っぽく告げた言葉に、クラリスの思考が一瞬停止した。

「お、おこぼれって何なのよ! 言い方が卑猥ですわよ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶクラリスに、今度はアウラが横からひょいと顔を出す。

「アウラはねー、お父さん大好きだから、一緒にいたいだけ!」

「アウラちゃんは……そうね、親子みたいな関係だものね……」

 無邪気なアウラの笑顔と、謙虚(?)なルーヴ。クラリスは一度深呼吸し、胸に手を当てて自分を落ち着かせた。

「……そう。そうでしたわ。主従と、親子。私一人で何をそんなに慌てていたのかしら。彼女たちは従魔なのですもの、主であるカイトを好きなのは当たり前ですわよね」

 ようやく納得したクラリスが「ホッ」と胸をなでおろした。だが、その直後だった。

「……ええ、左様です。クラリス様、我らは主を好きだからこそ、こうなってしまうのです。これは種族間の……ただの、スキンシップなのです」

 言い終わるや否や、ルーヴはカイトの背後から首に腕を回し、流れるような動作でカイトの顔を己の豊かな胸元へ深く埋めた。

「なっ……!?」

「やめろ、ルーヴ! 苦しい!」

 カイトが抗議するも、ルーヴは銀色の瞳を細め、悪乗りするように抱擁をさらに強める。

「ほら、お嬢様。これもおこぼれ……いえ、スキンシップの一環ですよ」

「な、なにを、何を言っているんですの! そういうことするから心配になるんじゃない! 離れなさい、今すぐ代わりなさい!」

 先ほどの冷静さはどこへやら、クラリスは再び顔を真っ赤にし、カイトを救出(あるいは場所を交代)しようとルーヴに掴みかかった。


 その様子を天井裏から覗くランバが、チッと舌打ちをする。

「……ちっ。もう少し荒れたらおもろかったんやけどなぁ。お嬢さんもチョロいというか、旦さんに骨抜きにされすぎやわ」

 天井裏で毒を吐く影の功労者をよそに、室内では「教育的スキンシップ」を主張する魔狼と、必死にカイトを奪還しようとする伯爵令嬢の、終わりの見えない戦いが続いていた。


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