第五十二話:銀狼のメイドと、揺れる主従の絆
「婚約の予約」を済ませ、甘い日常が加速するかと思われたカイトとクラリス。しかし、そこに立ちはだかったのは、人型を覚えたルーヴ――完璧な刺客だった。
ある朝、クラリスが目を覚ますと、リビングから香ばしい紅茶の香りが漂ってきた。
「あら、カイト。今日は早いですのね……って、ええっ!?」
そこにいたのはカイトではなかった。
銀髪を完璧なシニヨンにまとめ、黒と白のコントラストが美しいメイド服に身を包んだ人型ルーヴだ。
彼女は無駄のない動きで朝食を整え、カイトの横で優雅に立っている。
「おはようございます、クラリス様。主の目覚めに合わせて、最適な温度で茶を淹れました」
ルーヴの姿は驚くべきものだった。
顔立ちは絶世のクールビューティー。そして特徴的なのは「手」だ。肘から先だけが白銀の毛に覆われた狼の手でありながら、薄い磁器のカップを羽毛のように軽く、精密に扱っている。
「……ルーヴ、なぜメイド服を?」
「主の負担を減らすためだ。我は主の影であり、矛であり、これからは『盾としての給仕』も担う」
カイトが朝食を運びながら少し困ったように付け加える。
「……教えたら、一晩で完璧にマスターしちゃいまして。そこらのプロの侍女より手際いいんですよ」
その言葉に、クラリスの心に激しいアラートが鳴る。
ルーヴの献身は止まらない。学園への移動中も、彼女はカイトの半歩後ろを歩き、完璧な所作でクラリスの荷物を持つ。
廊下を通るだけで生徒たちが足を止め、ため息を漏らすほどだった。
「見て、あのメスチノ家の新しいメイド……なんて美しいのかしら」
「カイト様とお似合いだわ、まるでおとぎ話の従者コンビね」
放課後、自室に戻ったクラリスはカイトに詰め寄る。
「なんですの! あの完璧なメイドっぷりは! 廊下での噂、聞きましたわよ!? 『お似合いの二人』ですって!? カイトの隣は、私の定位置ですわ!」
モルフォーラが彼女の髪で激しく羽ばたき、緊張を強調する。
「……クラリス、落ち着いて。彼女はただ、俺を助けようとしてるだけだ……」
「それが困りますの! そんな完璧な美人が隣にいたら、私の影が薄くなっちゃう! 私だって、カイトのために何かしたいんだから!」
悔しさと焦燥で顔を赤くするクラリス。背後でルーヴは狼の手で器用にリンゴの皮を剥きながら、銀色の瞳を細める。
「……クラリス様。主の隣に立つには、相応の『能力』が必要だ。今の貴女に、何ができる?」
「なっ……! せ、宣戦布告ですのね!?」
カイトは二人の火花を横目に、天井裏からランバが投げ寄せた「旦さん、修羅場やな」というメモを無言で握りつぶすのだっ




