表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
65/117

第四十八話:武術大会の嵐と、侯爵の直球

 王立アカデミーの演武場。年に一度の「武術大会」の当日、会場は異様な熱気に包まれていた。

 この大会は、貴族の子息だけでなく、その「従者」の参加も認められている。主人の実力を誇示するための代理戦争であり、同時に優秀な人材を見出すスカウトの場でもあった。

 しかし、観客席のざわめきは大会そのものよりも、来賓席に並ぶ「ある夫婦」に向けられていた。

「おい、見ろ……グランヴィル侯爵夫妻だぞ」

「長く病に伏せっていたと聞いていたが、揃って観戦に来るなんて……」

「跡継ぎがいないあの家だ。いよいよ養子でも探すつもりか?」

 杖を置いたオズワルド侯爵と、顔色の良いマリー夫人が並んで座る。その視線は、ただ一人の少年――メスチノ家の従者として列に並ぶカイトだけに注がれていた。


 大会が始まると、カイトの独壇場だった。

 剣を抜くことすら稀で、相手が名門の護衛騎士であろうと、上位クラスの特待生であろうと、その攻撃はカイトの影に吸い込まれるようにかわされる。

「次、来てください」

 カイトが短剣の峰で軽く突くだけで、大男たちが木の葉のように舞い、演武台から転げ落ちる。魔法も介さない、洗練された体術と完璧な間合いの管理。

 決勝戦。相手は王都でも剣豪と名高い子爵家の長男だったが、カイトは彼が剣を振り下ろす瞬間に懐へ潜り込み、つかの一撃で意識を刈り取った。

 静まり返る会場。審判が呆然と「……勝者、カイト!」と宣言したその時だった。


 来賓席から、朗々とした声が響き渡る。

「素晴らしい! さすがは、私が見込んだ若者だ!」

 立ち上がったのはオズワルド侯爵だった。周囲の貴族たちが度肝を抜く中、演武台の上のカイトを指差して堂々と宣言する。

「カイトよ! その実力、その立ち振る舞い。我がグランヴィル侯爵家の跡継ぎに、……いや、私の『養子』にならぬか!?」

 会場が、今日一番の叫び声に包まれた。

「侯爵家が……あの従者を養子に!?」

「ただの従者が、一気にこの国の頂点に立つのか!?」

 クラリスは応援席で「ええっ!?」と立ち上がり、顔を真っ赤にしてカイトを見ている。

 だが、注目の的であるカイトは、肩をすくめると観客席の侯爵に向かって深々と一礼した。

「……光栄な申し出ですが、侯爵様。僕はまだ、メスチノ家での仕事(家事と勉強)が残っていますので。そのお話は、また後日、ゆっくりと」

 この場での決定を避ける、あまりにマイペースな回答。だが、この瞬間、カイトの名は王都中の貴族の脳裏に刻まれた。「メスチノ家の有能な従者」は、今や「最も高貴な血筋を継ぐ可能性を持つ、最強の青年」として認識されてしまったのだ。


「カイト! あなた、断るにしてももっと言い方がありますわよ!」

 駆け寄ってきたクラリスが叫ぶ。

「お嬢様、早く帰りましょう。……夕食は侯爵家からの差し入れの高級肉を焼く約束ですから」

 騒乱を背に、カイトはいつものようにクラリスをエスコートして歩き出す。


『旦さん、王都中の貴族が腰抜かしてまっせ!』

 影の中ではランバが腹を抱えて笑っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ