閑話:影の絆と、小さな新参者(カイト視点)
侯爵の孫。 あまりに劇的なその判明劇から数時間。ようやく寮に戻った俺は、制服を脱ぎ捨てるのももどかしく、いつものベッドに体を沈めた。
(……焦った。心臓が跳ねるとはこのことだ)
あのペンダントヘッド。あの薄暗い崩れかけの家に、あんな高価なものが持ち物にあるのはおかしいと薄々気づいてはいた。だが、それがまさか、この国の重鎮であるグランヴィル侯爵家のものだったとは。 精神年齢のおかげでポーカーフェイスを維持できたが、十代のガキとしてはもっと驚いて見せるのが正解だったのかもしれない。今更考えても後の祭りだが。
ふと、ベッドがわずかに沈んだ。 見れば、影から這い出したランバが、珍しく申し訳なさそうに佇んでいる。
「……どうかしたか?」
「旦さん、余計なことして堪忍やで。旦さんが小さい頃から肌身離さず持っとったペンダントと同じものが、マリーはんの部屋にある。……どないしても気になってもうて、体が勝手に動いてもうたんですわ」
「もういいよ。俺のルーツを気にしてくれたんだろ? ありがとな」
俺がランバの頭を指先で撫でると、彼は心地よさそうに目を細めた
「……まあ、思い付きにしてはワテもええ仕事したと思うとります」
「反省、してないだろ?」
「そうでんな」
ランバがニシシと笑う。この図太さには救われる。
「けど、旦さんが本気で焦っとるのを見るんは初めてやったから、ワテも少し驚きました」
「……そんなに顔に出ていたか? 周りには気づかれていなかったと思うんだが」
「旦さんは感情を表に出さんから、人間にはわからんはずや。けど、ワテらは魂で繋がっとる。旦さんの動揺が、濁流みたいに流れ込んできたんや。……そやから、わかるんや」
「……アウラやルーヴにも筒抜けだったわけか」
「主、その乱れた心を私の体で包みましょうか?」
影からルーヴが、グレートウルフの銀髪を揺らしながら顔を出す。
「僕も一緒に寝るぅ!」
アウラまでが顔を出した。
「ルーヴは人型になれるからいいが、アウラ、お前はデカすぎるだろ。人型になれるならって……ん?」 「なれるもん! 見てて!」
アウラの小さな体がシュルシュルと魔力の光に包まれ、収束していく。
光が晴れた後にいたのは、小学校低学年ほどの、愛らしい少女だった。将来は間違いなく絶世の美女になるだろうと思わせる整った容姿。……だが。
「……アウラ、裸はいかん。というか、目のやり場に困る」
「あ、忘れてた!」
アウラが照れくさそうに指を鳴らすと、白を基調とした可憐なワンピースが彼女の体を包んだ。
「旦さん。アウラはんの人化。……侯爵の孫やてわかった時より、今の方が焦っとるで?」
「……ランバ、それを今言ってどうする」
かつての俺なら、子供相手に動揺などしなかったはずだ。だが、クラリスに惹かれている自分を自覚している時点で、精神が肉体の年齢に引きずられ、若返っているのは認めざるを得ない。
精神は大人、肉体は少年。そのバランスは今更ながら異質で、危うい。
だが、こうして騒がしい従魔たちと、時には振り回され、時には支えられてワイワイやるのは……決して、嫌いではない。
侯爵の孫としての責務、そして父親へのアピール。これから何が起こるかはわからないが。
「……まあ、頑張るしかないか」
俺はアウラの小さな頭と、ルーヴの柔らかな髪に手を伸ばし、そのまま深い眠りへと落ちていった。




