第四十四話:影からの納品
王都冒険者ギルドの喧騒は、夕暮れ時になると最高潮に達していた。酒を飲み、その日の収穫を自慢し合う荒くれ者たちの前に、再び「場違いな二人」が姿を現す。
「おい、見ろよ。ピクニック帰りの坊っちゃんとお嬢様だ」
昼間に絡んできた冒険者が、仲間と肩を組み、野卑な笑いを浮かべる。
「どうだった、お嬢さん? 綺麗な服が泥だらけか? それとも、あまりの怖さに泣いて逃げ帰ったか?」
クラリスはふん、と鼻を鳴らした。
「残念でしたわね。とっても楽しいピクニックでしたわ。特に、あのトカゲが派手にひっくり返ったところなんて、最高の余興でしたもの」
「トカゲ……? はっ、野うさぎの見間違いじゃねえのか」
冒険者たちはゲラゲラ笑いながらカイトを見るが、少年は無言で受付のカウンターへ歩み寄る。手には、袋も荷物も何一つ握られていない。
「すみません、先程の依頼の完了報告です。……おい、出せ」
カイトが短く呟き、カウンターを指差した。
その瞬間、カウンターの表面に落ちたカイトの「影」が不気味に波打つ。
「ヒヒッ、お待っとおさんで!」
陽気な声と共に、影の中から灰色の腕が次々と突き出される。ランバたちだ。
ドサリ、ドサリ。
まだ生々しい魔力を放つ、巨大で鋭いレッサードラゴンの逆鱗、そして数人がかりでなければ運べないほどの重厚な外殻と牙が、何もない空間から湧き出るようにカウンターへ積まれた。
「…………えっ?」
受付嬢は悲鳴すら上げられずに固まる。影から「手」が出て納品される光景など、前代未聞だった。
「部位欠損なし……心臓の魔石は不慮の事故で消失しましたが、これで十分ですね?」
「な、……な、何ですってぇー!?」
絶叫する受付嬢に、野次を飛ばしていた冒険者たちが一斉にカウンターへ身を乗り出す。
「嘘だろ!? レッサードラゴン……それも、成体じゃないか!」
「影を収納に使ってるのか? それとも、あの影そのものが魔物か……!?」
昼間に絡んできた男が、真っ青な顔で後ずさる。カイトが視線を向ける。怒りも勝ち誇りもない。ただ「邪魔だ」と言わんばかりの、底知れない無関心な瞳。
「ピクニックの邪魔はしないでくれと言ったはずですが。……何かまだ、言いたいことが?」
「ひっ……あ、ああ……い、いや、その……」
男は腰を抜かし、尻餅をついた。影から覗くランバの鋭い視線が、熟練の冒険者の本能に「死」を理解させたのだ。
「カイト! もういいではありませんか。早く帰りましょう、私、あのお肉が楽しみですの!」
「そうですね。お嬢様」
カイトは待ちきれないクラリスを見て手際よく報酬の金貨を受け取り、呆然と立ち尽くす人々を背に、涼しい顔でギルドを後にした。
翌日から、ギルドの掲示板には「メスチノ家の従者には絶対に関わるな」という暗黙のルールが、誰が言うともなく刻まれることとなった。




