第四十三話:血肉湧き踊るピクニック
侯爵の養子騒動で王都が慌ただしくなる中、カイトは寄宿舎の窓の外を眺めてポツリと漏らした。
「……暇だな」
『暇です』『暇なのだ!』
影の中からルーヴとアウラの声が重なる。
「そうだな。気晴らしにピクニックにでも行くか」
「ピクニックですって? 当然、私も行くわよね!」
聞き逃さなかったクラリスが瞳を輝かせて飛びつく。
カイトは苦笑しながら、少し物騒な補足を加えた。
「ピクニックという名の『討伐』に行こうと思っていたんだけど……行く?」
「行く行く! むしろそっちの方が面白そうですわ!」
王都の冒険者ギルドに、場違いなほど着飾った伯爵令嬢と、涼しい顔の少年が現れる。
「おいおい、そんな綺麗な服を着た女の子を連れて、ピクニックかい?」
柄の悪い冒険者がニヤニヤ絡んでくる。
クラリスはふんぞり返って言い放った。
「ええ、そうですわ! 血肉湧き踊るようなピクニックに行きますの!」
「……お嬢さんが使う言葉じゃない気もするがな」
カイトは騒ぎを無視して依頼板から「レッサードラゴンの討伐」の紙を引き剥がした。
受付嬢が慌てて身を乗り出す。
「お客様、この依頼は危険すぎます! 経歴のない方が受けるのは……」
「これを見ていただけますか」
カイトがギルド証を示すと、受付嬢の顔が凍った。
「……グリフォン、ワイバーン……サイクロプス……!? えっ、まさか」
「シー……静かにお願いします」
カイトが指を口に当てると、周囲の冒険者たちはすでにざわめき始めていた。
「それでは手続きを。……お嬢様、行きますよ」
「大きな声で凄さを言えばいいじゃない!」と不満げなクラリス。
「絡まれすぎると、せっかくのピクニックが台無しだぞ?」
「それは嫌! さっさと行くわよ、カイト!」
門を出て街道を少し逸れると、カイトは影からアウラを呼び出した。
本来の巨躯を隠さず現した風の女神に、クラリスは驚きつつも喜びの声を上げる。
「アウラ、二人を乗せてくれ」
『了解、お父さん!』
背に乗って空へ飛び出すと、王都がミニチュアのように小さくなっていく。
「空を飛ぶなんて! こんなに気持ちいいんですのね!」
子供のようにはしゃぐクラリスを見て、カイトは満足げに目を細めた。
森の奥深くに降り立つと、カイトはルーヴ(グレートウルフ)とランバたちを放つ。
『旦さん、あっちにおりまっせ。ええ感じの獲物や』
ランバの案内で進むと、周囲を威圧するレッサードラゴンが立ちはだかっていた。
「アウラはクラリス様の護衛だ。……よし、やるか」
グレートウルフたちが一斉に吠え立て、ドラゴンの注意を引く。獲物と侮り、ドラゴンが大きく息を吸い込んだ瞬間――。
カイトが魔力で形成したバスケットボール大の岩が、正確に口内へ撃ち込まれる。
「ガハッ……!?」
体内でブレスが暴発し、悶絶するドラゴン。そこへルーヴとランバが飛びかかる。
「行け!」
フライやコックロたちは体内に侵入し、急所を破壊する。カイトが双剣で喉元を切り裂いた時には、すでに勝負は決していた。
ランバたちが手際よく解体する中、カイトは指示を出す。
「肉は今日の俺たちの夕食だ。牙と素材はギルドに。魔石は……」
言いかける前にランバがゴクリと魔石を飲み込む。
「ごちそうさんですわ!」
カイトはアウラを呼び戻し、少し離れた静かな高台へクラリスを促す。
「さて、俺たちも食事にしようか」
「ええ、お腹ペコペコですわ!」
遠くで魔物たちが肉を貪る「バリバリ」という音をBGMに、カイトはベルタ直伝の特製弁当を広げる。
血生臭い討伐の後の、穏やかな陽だまりでの食事。
「やっぱりカイトの料理は最高ですわね。……また連れてきなさい!」
「はいはい。まあ、また従魔たちが騒いで、俺の気が向いたら……だな」
二人の笑い声が、ドラゴンが倒れた森に平和に響き渡った。




