第四十二話:公開審問、従者の冷徹な論理
王立アカデミーの大講堂。普段は講義や集会に使われる場所に、審問官や署名した保守派教員、そして好奇心に駆られた生徒たちが詰めかけていた。壇上には、緊張の面持ちで並ぶ審問官たちと、学園の秩序を象徴する腕章を巻いた教員たち。
中央には、堂々と立つ一人の少年――カイト。
「メスチノ家の従者、カイト。君の周辺で、学園の秩序を乱す行為が行われた疑いがある。事実を述べよ」
審問官長の声は厳しく響く。
カイトは静かに視線を巡らせ、壇上の全員を順に見渡した。
「承知しました。ここに記されている通り、私の行動には不正は一切ありません。クラリスお嬢様の部屋、行動記録、証拠品すべてを確認済みです。ご覧の通り、何一つ後ろめたいものはございません」
審問官長は一歩後ずさり、青ざめた顔で言葉を探す。
「な、何……!? それはどういう……!」
その瞬間、影の中からランバの声が響いた。
『旦さん、必要な書類と目撃情報、全て揃ってまっせ。審問官、署名者、それぞれの弱点も完璧に押さえてますわ』
カイトは微笑む。
「では、実際にご覧いただきましょう」
ランバの指示に従い、カイトの前に審問官や署名者たちの不正記録、疑念を裏付ける証言、各種文書が次々と提示される。生徒たちのざわめきが広がり、壇上の審問官たちは狼狽を隠せない。
「これでお分かりでしょう。疑いは完全に晴れました。学園内の秩序を乱す者は、むしろここにいる皆様ではないかと、私は申し上げます」
カイトは一歩前に出て、冷静に告げる。
「続いて、今日この場にいる皆様のいくつかの不正を確認させていただいてもよろしいでしょうか?」
審問官たちは顔色を変え、どよめきが大講堂に広がる。
「な、何を……!」
「静かに聞きなさい」
カイトは順に、署名者や審問官の過去の公私混同、無断横流し、不正貸与、学園規則違反を整理して示す。誰も否定できず、言い訳も通らない。
「このような不正を起こす審問官の下で、私に公開審問を行う権利はありません。潔白を持って審問できる者に、場を変えていただくのが筋です」
大講堂は静寂に包まれる。生徒たちの目はカイトに釘付けとなり、審問官たちは顔を伏せ、席に沈むほかない。
その時、クラリスがひそりと呟く。
「……カイト、あなた、まるで王都の陰を掌握しているみたいですわ」
「表舞台も、影の世界も同じです。秩序を守るのも、秩序を乱す者を制するのも、結局は情報次第です」
カイトの声は、冷たくも確かな自信に満ちていた。
こうして、カイトは学園における「完璧な従者」としての権威を、さらに強固なものとしたのだった。
公開審問後の学園の変化
審問が終了したその日、学園中の空気が微妙に変わった。
教師ですら、カイトの視線が自分に向かうとそらすようになり、生徒たちはひそひそと彼の名前を口にする。誰もが認めざるを得なかった──あの少年は、ただの従者ではなく、学園という世界のルールを掌握している存在であることを。
クラリスはいつも通り、天真爛漫な笑顔でカイトに話しかける。
「カイト、審問の時もあんなに堂々として……やっぱりあなたってすごいですわ!」
「お嬢様、あまり目立つとまた騒ぎになりますよ」
「うふふ、そうですか? でも、私の特別な従者なんですもの。みんなには内緒にしておきますわ!」
生徒たちは、クラリスとカイトの間にある「触れてはいけない線」を自然と意識するようになった。ニーナをはじめとする手下たちは、二人の存在に背筋を伸ばし、信頼と尊敬を新たにする。
「クラリス様とカイト様がいれば、私たちも安心して学べます……!」
「情報の扱い方、もっと学ばなきゃ……!」
教室の端では、以前なら横柄に振る舞っていた子息たちも、カイトに直接目を合わせることすらためらうようになった。公爵家の子息でさえ、情報の武器を持つ彼の前では慎重に振る舞うしかない。
クラリスはそんな学園内の空気を楽しむように、カイトの肩に手を置き、軽くじゃれつく。
「カイト、今日は私だけの特別な従者になってくれてありがとう!」
「お嬢様、私は常にお嬢様専属です」
「ふふっ、それなら良いですわ!」
その日以来、クラリスとカイトは学園内で「触れてはいけない二人」としての地位を確立する。教師も生徒も、そして手下たちも、それを自然と尊重するようになった。
ランバたちは影から静かに見守る。
『旦さん、ええ具合に支配力広げましたな……。学園の中心で安心して遊べまっせ』
『ああ、この二人の間に信頼がある限り、俺たちも安全だ』
夕暮れ、クラリスは小さく笑いながらカイトの袖を握る。
「ねえ、カイト。こうやって私のそばにいてくれるのって、本当に特別ですわね」
「ええ、特別ですよ。お嬢様専属として、ずっと一緒です」
その日から、クラリスの笑顔とカイトの冷静な佇まいは、学園の誰もが知る「安心と特別」の象徴となった。




