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第四十一話:影の留守番と、二人の余韻

「アウラ、ルーヴ。今日は二人とも、お留守番だ」

 出発前、カイトは影の中にそう告げた。

『えぇーっ! お父さんとお出かけしたい!』

 アウラが影の中でジタバタと地団駄を踏むが、カイトは首を振る。

「王都は魔導師も多い。お前の強すぎる魔力は、人混みでは目立ちすぎるんだ。……ルーヴ、アウラを頼んだぞ」

『御意。主の留守中、この「影」は一歩たりとも外敵を寄せ付けぬよう守護いたそう。……アウラ、主を困らせるな。我らはお留守番だ』

『むぅ……。わかった。お土産、期待してるからね!』

 こうして、超弩級の魔物たちは影の奥底で待機することになった。今回はランバの情報網だけを薄く張り巡らせた、カイトにとっては「身軽な」外出だった。


 視察の終わり

 王都の街並みを堪能し、揚げパンの脂っぽさを茶で流し込みながら、二人は夕暮れの街道を寄宿舎へと戻ってきた。

 クラリスは、カイトの袖を掴んだまま、時折思い出したように自分の頭を触っている。以前カイトに撫でられた感覚が、まだ残っているかのようだった。

「カイト。今日のことは、誰にも内緒ですわよ? 私たちの、特別な『視察』なのですから」

「わかっています。誰かに聞かれたら、学術的な市場調査だったと答えますよ」

「もう、あなたという人は……ふふっ」

 二人が寄宿舎の重厚な門を潜った、その時だった。


 慌てふためくニーナ

「カイト様! クラリス様!」

 建物の陰から、文字通り転がるようにして現れたのは、クラリスの「一番の手下」であるニーナだった。髪は乱れ、呼吸も荒い。

「ニーナ? どうしたんですの、そんなに慌てて」

「お、お帰りなさいませ! 大変なんです! お二人がいない間に、学園の掲示板に……その、とんでもないものが貼り出されて……!」

 ニーナが差し出したのは、一枚の写しだった。

 そこには、昨日の「風紀委員会の家宅捜索」の件を引き合いに出し、カイトの能力を『学園の平穏を乱す異端の力』として糾弾し、彼を公式な「公開審問」にかけるべきだという、一部の保守的な教員と上位生たちの連名による署名が記されていた。

 どうやら、あまりに完璧すぎた「潔白」が、逆に権力者たちの恐怖と嫉妬に火をつけてしまったらしい。

「……なるほど。何も出なかったのが、そんなに気に入らなかったか」

 カイトの瞳から温度が消える。

『旦さん。留守の間にネズミが騒いどりますなぁ。……掃除、しときまひょか?』

 影の中から、ランバの冷ややかな声が響く。

「カイト! こんなの認めませんわ! 私が今すぐお父様に……!」

 激昂するクラリスを、カイトは手で制した。

「いいえ、お嬢様。ちょうどいい。……一度、徹底的に『わからせて』やる必要があります。影でこそこそ動くより、表舞台で黙らせた方が、後の掃除が楽ですから」

 カイトは影の中に潜むルーヴとアウラの気配を感じながら、不敵に口角を上げた。

 ただの従者として過ごす平穏な日々は、どうやらここまでのようだった。


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