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第三十九話:完璧な潔白と、奇妙な副産物

「あのメスチノ家の部屋には、塵一つ、後ろ暗い証拠一つなかった」


 風紀委員会による家宅捜索の結果は、瞬く間にアカデミー中に広まった。本来なら失墜を狙ったはずの儀式は、皮肉にもカイトとクラリスの「完璧な潔白」を証明する舞台となってしまったのだ。

 あれだけ高圧的だった風紀委員長は、自身の公私混同を突かれた恐怖からか、翌日からカイトの姿を見るなり青い顔で逃げ出す始末。その様子を見た生徒たちの間では、カイトに対する評価が劇的に変化していった。


「ただの従者じゃないわ。あの風紀委員会を返り討ちにするなんて……」

「それに、あの部屋の整頓具合。家事能力も超一流らしいぞ(※物理法則を無視した巨大ベッドの存在は、あまりの衝撃に全員の脳が情報処理を拒否したため、ノーカウントとされた)」


 怪しい情報の売人という疑念は消え、代わりに「あまりにも有能で、非の打ち所がない完璧な従者」という、新たな、そしてより強固な偶像が出来上がっていた。


 放課後の図書室。クラリスが宿題に励む傍らで控えるカイトのもとへ、ひっきりなしに生徒たちが訪れるようになった。


「カイトさん、あの……。失くした鍵の場所、心当たりありませんか?」

「中庭のベンチの下、右から三番目の脚の根元です」

「えっ、本当にあった! ありがとうございます!」


「カイト君、この魔導回路の数式、どうしても合わなくて……」

「係数の処理が古いですね。ここをこう書き換えてください。三分で解けます」

「……天才かよ……」


 疑念が信頼へと反転した結果、カイトはいつの間にか学園内の「よろず相談役」のような立ち位置に収まっていた。もちろん、カイトが即答できるのは、常に学園内を巡回しているヒドゥンラットやコックロたちから逐一情報が届いているからだ。


「……なんだか、カイトが私だけの従者ではなくなっている気がしますわ」


 クラリスが面白くなさそうにペンを置き、頬を膨らませる。

「お嬢様の評判が上がるのは良いことでしょう。私への信頼は、そのままお嬢様の権威になります。実質、学園の裏側を掌握しつつありますから」

「それはそうですけれど……」


 クラリスはカイトの袖口をぎゅっと、少しだけ強めに握りしめた。


「……私のカイトでなくなるのは、嫌ですの。皆に親切にするのは構いませんけれど、あなたが一番に守るべきは、私であることを忘れないでくださいましね?」


 少しだけ潤んだ瞳で見つめられ、カイトは苦笑を漏らす。

「そりゃそうだろう? 俺の『隣』は、いつだってクラリスが居ると思っている」


 その言葉に、クラリスは満足そうに顔を赤らめ、再び宿題へと向かうのだった。

 カイトは窓の外で控えるランバに「やりすぎたか?」と視線で問いかけたが、ランバは影の中でニヤニヤと笑いながら親指を立てるだけだった。


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