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第三十四話:最初の授業と、傲慢への断罪

 翌朝、王立アカデミーでの本格的な授業が始まった。

 広い階段教室には、色とりどりの制服に身を包んだ貴族の子息たちが集まる。その壁際や後方には、主人の世話をする従者たちが一列に並んで控えていた。

 カイトもまた、クラリスの斜め後ろに立ち、静かに教壇を見つめていた。

 だが、その平穏はすぐに破られる。休憩時間、数人の生徒を従えた少年が、挑むような視線をカイトに向けて歩み寄った。

「おい、メスチノの……その、隅に立っているガキは何だ? 随分と貧相な従者を使っているな」

 声の主は、エドワード公爵家の三男、ヴィンセント。学園でも権力のある家の出で、その傲慢さは周囲の生徒たちを萎縮させるに十分だった。

「カイトは私の大切な従者ですわ。ヴィンセント様、失礼ではありませんこと?」

 クラリスが毅然と言い返す。だがヴィンセントは鼻で笑った。


「大切な、か……おい小僧、貴族の学び舎に相応しい礼儀というものを教えてやろう。まずは私の靴でも舐めて――」

 その時、カイトの声が静かに、だが教室の喧騒を切り裂くように響いた。

「エドワード公爵家……昨晩、北街区の賭博場『銀のダイス』に、家紋を隠して出入りしていたのは、ヴィンセント様でしたか」

 ヴィンセントの顔から血の気が引く。

「な、何を……でたらめを……!」

「でたらめではありませんよ。……他にもあります。あなたが父親の名を騙って王宮の書庫から『禁じられた魔術書』を三冊持ち出したこと。……あ、一冊はすでに学外の商人に横流し済みですね? 借金返済のために」

 カイトは一歩も動かず、淡々とランバたちが集めた「事実」を並べるだけだ。


「な、な……なぜそれを……!」

「情報は、隠しているつもりでも漏れるものです。特に、あなたの影は饒舌じょうぜつですからね」

 カイトの瞳がヴィンセントを射抜く。

「これ以上、私や主人に構うなら、そのリストの続きを教務主任……いや、厳格で有名なあなたのお父様に直接お届けします。そうなれば、あなたの席は明日にはもう、ここにはないでしょう」

 周囲の生徒たちがざわめき、囁きが鋭い刃となってヴィンセントに突き刺さる。


「……ひ、ヒィッ……!」

 ヴィンセントは目の前の少年の背後に、底知れぬ巨大な「闇」を感じたかのように後ずさり、取り巻きたちを置いて教室から逃げ出した。

 教室は静まり返る。カイトは何事もなかったかのようにクラリスに向かって一礼した。

「お騒がせしました、お嬢様。……次の講義の準備をしましょうか」

「……カイト、あなた、本当にどこでそんな情報を……」

 クラリスが呆然と呟くと、カイトは困ったような微笑みを浮かべるだけだった。

 その日の午後、ヴィンセントは「急病」の名目で寮へ引きこもり、二度とカイトを目にすることはなかった。

 学園の支配構造を、暴力ではなく「情報」という不可視の糸で掌握する。

 カイトの王都生活は、こうして不遜なる者たちの排除から幕を開けた。


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