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第三十一話:街道の障害と一人の「怪力」従者

 王都へと続く中央街道は、多くの馬車が行き交う物流の大動脈だ。

 カイトたちは、四人の騎士に守られたメスチノ家の馬車で、野営や宿場町での休憩を繰り返しながら、順調に北上していた。

 しかし、王都まであと数日の地点で、思わぬ障害に行く手を阻まれた。

 前方の路肩に他家の馬車が斜めに傾き、道を半分塞いで立ち往生している。車輪の軸が折れたのか、どうしても動く気配がない。

「邪魔だ。我々は予定通り進む。即刻、道を空けろ!」

 メスチノ家の騎士が声を荒げる。向こう側の護衛騎士も負けじと応じ、馬上で睨み合った。

「仕方ないだろう、動かないんだから! 今、修理の者を呼んでいる最中だ。待つか、溝にでも落ちて避けるしかない!」

 一触即発の緊張が路上に漂う中、カイトは馬車の中から静かにその様子を観察していた。

(……このままでは日没までに通れないな)

 そう判断すると、カイトは無造作に馬車から降りた。

「……カイト? どこへ行きますの?」

「少し、道を開けてきます」

 クラリスの声に、軽く答えただけで彼は揉めている現場へ歩み寄る。


 カイトは壊れた馬車の横に立ち、周囲に悟られないよう、足元の影からランバたち従魔を呼び出した。

(……ランバ、ルーヴ。見えないように、下から支えてくれ。俺が押す振りに合わせるんだ)

『心得ましたわ、旦さん』

『承知した。……これほど軽いもの、鼻息でも動くがな』

 カイトが後部に手を添えた瞬間、馬車の下の影の中で小さな震えが走った。

 数十匹のヒドゥンラットたちが、見えない位置から車輪や軸を支え、ルーヴとアウラが隠密に荷台を押し上げる。

 表向きは少年が一人で押しているように見えるが、実際には彼の「怪力」に影の従魔たちの力が加わっていたのだ。

「せーの」

 馬車は氷の上を滑るかのように軽々と動き出す。

 驚愕する騎士たちの声が、路肩の木々に響く。

「なっ……!? バカな、一人で動かしたのか!?」

 カイトはそのまま馬車を路肩の広い場所まで押し、進行路を完全に確保する。

「……これで問題ありません。では、我々は急ぎますので」

 手についた埃を払いながら、スマートに自分の馬車へ戻るカイト。


 馬車の窓から顔を乗り出したクラリスは、興奮して上気した顔で叫んだ。

「見ましたか! 私の従者なら当然のことですわ! おーっほっほっほ!」

 誇らしげに腕を組む彼女に、カイトは困ったように笑った。

「……お嬢様、騎士さんたちの目が怖いです」

「いいではありませんか。強い従者を持つのは、貴族の嗜みですもの」

 影の中では、ランバやルーヴたちが静かに労をねぎらっていた。

 こうしてカイトは、トラブルさえもクラリスの自尊心を高める材料に変えながら、一行はついに王都の壮麗な城壁をその視界に捉えるのだった。


読んでいただきありがとうございます。

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