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第二十九話:ギルドマスターの頭痛と、平穏の代償

 メスチノの街の門を潜ると、早くも不穏な空気が漂っていた。

 馬車から降りたカイトに、待ち構えていたギルド職員が血相を変えて駆け寄る。

「カイト君、ギルドマスターがお呼びです。今すぐ……いや、昨日来いと言わんばかりの勢いですよ!」

 カイトは溜息を吐き、隣で名残惜しそうに服の袖を掴むクラリスを伯爵に預けると、重い足取りで冒険者ギルドへ向かった。


「――お前、隣の街で一体何をやらかしてきたんだ」

 ギルドマスターのドアを開けるや否や、ギルドマスターのグレッグが眉間に深い皺を刻んで吼える。

 デスクの上には、ガリアント子爵からの公式な感謝状と、朱書きで「緊急報告」と記された書類が積み上がっていた。

「何って……頼まれた護衛と、ついでに病気の治療をしただけですよ」

「その『ついで』で、他領の街一つを救い、邪教徒の祭壇を粉砕し、子爵家の家宝までせしめてくる奴があるか!」

 グレッグは頭を掻きながら、机に肘をつく。

「いいか、カイト。お前はもう『有能な子供』の枠をとうに超えている。ガリアントからは『ぜひ我が領にスカウトしたい』との打診まで来ている。……お前、うちのギルドを抜ける気か?」

「まさか。俺はメスチノが好きですし、雁亭を離れるつもりもありません。……めんどくさいので、その辺は上手く断っておいてください」

 あまりに無欲、いや面倒くさがりな態度に、グレッグは毒気を抜かれたように椅子に深くもたれかかった。

「……ったく、お前という奴は。まあいい。今回の件は『伯爵家が同行していた特殊案件』として処理してやる。だが、ギルド内でのランク上げは避けられんぞ。いつまでもFランクでいられると思うなよ」


 ギルドを出たカイトを、夕焼けの残光が包む。

 家路につく道すがら、影が不自然に揺れ、ランバの低い念話が響いた。

『旦さん、お疲れさんですわ。……早速ですが、放った連中から面白いネタが届きよりましたで』

「早いな。何があった?」

『ガリアントの街で死んだ術者連中、どうやらこの辺りの闇市場で「水晶の香炉」を大量に買い付けた商人がおるようで。その商人の背後に……「深淵の蛇」の息がかかった貴族の名前が見え隠れしとります』

 カイトは足を止めず、周囲に悟られないよう低く呟く。

「……どの程度の規模だ?」

『まだ尻尾の先ですけど、この国だけでなく、隣の聖王国まで根が深そうですわ。……どうします? もっと潜らせますか?』

「泳がせておけばいい。……ただし、俺たちの街や雁亭に少しでも触れようとしたら、その瞬間に首を刎ねる。それだけは徹底させろ」


 やがて見えてきた宿「夕焼けの雁亭」。

 扉を開けると、ベルタの明るい声が迎える。

「おかえり、カイト! あんた、また随分と派手な稼ぎをしてきたらしいじゃないか!」

 豪華な子爵邸の晩餐よりも、この少し古びた木の匂いと、大皿料理の湯気の方が、今のカイトにはずっと心地よかった。

「ただいま、ベルタさん。……お腹、空きました」

 金貨五十枚を懐に、大陸を揺るがす陰謀を影で操りながら、少年はいつもの席に着き、静かにスープを啜った。


読んでいただきありがとうございます。

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