第二十七話:地下の汚泥と、白銀の突撃
カイトがエドワードの額から手を離すと、操られていた少年は糸が切れたかのように床へ崩れ落ちた。
「ランバ、頼む。こいつ(エドワード)の魂の繋がりはまだ生きている……辿れるか?」
『……旦さん、見え見えですわ。この屋敷の地下、冷たくて嫌な魔力がドロドロと流れとります』
ランバが床を指し示す。その視線の先には、豪華な絨毯に隠された小さな扉があった。
「ガルムさん、準備は?」
「おう! オッサンたちの出番を待ってたぜ!」
大盾を叩き、重斧を担ぎ、バラスはすでに鍵を解除している。
「伯爵様、ここでお嬢様と子爵をお願いします……クラリス、動かないで」
「カイト、気をつけて……!」
祈るような視線を背に、カイトは暗い地下階段へと足を踏み入れた。
地下室は湿った土と死臭が混じる異様な空間。
中央には、子爵の部屋のものより遥かに巨大な「水晶の祭壇」が鎮座し、周囲では黒装束の男女が詠唱を続けていた。
「――チッ、ネズミが紛れ込んだか」
振り返ったその瞳は、エドワードと同じく濁っている。
「ネズミならここにおるでぇ!」
カイトの影から飛び出したランバが一撃で喉元を切り裂く。
「野郎ども、突っ込め!」
ガルムの号令と共に、バルセオが斧で祭壇を囲む盾を粉砕する。
「バラス、術者を狙え! バルセオ、祭壇の破壊を優先!」
カイトは魔力を練り上げつつ指示を出す。
黒装束たちは狂信的な笑みを浮かべ、地下に溜まった泥のような魔力を触手として放った。だがカイトには、その動きがすべて止まって見えた。
「……アウラ、やれ」
『はーい、お父さん!』
地下という閉鎖空間に、突如として吹き荒れる真空の刃。
声だけが響き、不可視の風が黒装束たちの腕や足を正確に切り飛ばす。
アウラは地上で待機しているように見せつつ、影を通してその力を地下へ送り込んでいたのだ。
「……ぐ、あああ! 何だ、この力は……! ただの冒険者ではないのか……!」
最後の術者が、カイトに詰め寄る。
「質問は一つだ。お前たちの『後ろ』にいるのは誰だ」
「……ヒヒ、クハハ! 『深淵の蛇』は……」
男の体が内側から黒い炎に包まれ、口封じの呪印となった。
カイトは舌打ちして手を離す。
「……終わったか」
バルセオが血の付いた斧を払い、ガルムが祭壇を完全に粉砕した。
地下に溜まっていた不浄な魔力は霧散し、街全体を覆っていた重苦しい気配が一気に晴れる。
「カイト、大丈夫か?」
ガルムの問いに、カイトは静かに頷くが、その視線は灰と化した死体の跡に注がれていた。
「……ええ。でも、どうやらこれで終わりではなさそうですね」
街を救った英雄としての凱旋は待っているはずだ。だがカイトの胸に、冷たい影を落とす名――『深淵の蛇』。
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