表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/44

閑話 カイトとモフモフ(クラリス視点)

 正直に言えば、最初は怖かった。

 馬車の外で蠢く影。鋭い牙、爪、うなり声。

 書物で知っている「魔物」という言葉が、そのまま形になってそこにあった。

 けれど――

 少し距離を置いて眺めているうちに、気付いてしまった。

 大きな狼は、主の一言でぴたりと動きを止める。

 小さなネズミの魔物たちは、勝手に走り回るくせに、必ず彼の足元に戻る。

 空を飛ぶものは、命令がなくとも周囲を警戒していた。

 ……統率されている。

 それも、恐怖ではなく、信頼で。

 カイトは彼らに厳しい。

 だが、理不尽ではない。

 できないことを叱らず、できることを任せ、危険からは必ず遠ざける。

 それはまるで――

 強い者が、弱い者の居場所を守っているようだった。

「触っても、大丈夫ですよ」

 そう言われたとき、少しだけ迷った。

 けれど差し出された手が、私を引っ張るでも押すでもなく、ただ“待って”くれていたから。

 そっと、銀色の毛並みに触れる。

 ……あたたかい。

 想像していたより、ずっと柔らかくて、呼吸に合わせて指先が沈む。

 一度撫でると、次はためらいが消えた。

 撫でるたび、毛並みが整い、狼は目を細める。

 気付けば私は、夢中になっていた。

 その様子を、カイトは少し離れたところから見ていた。

 急かさず、声もかけず、ただ――私が満足するまで。

 そのことに気付いた瞬間、胸の奥が静かに揺れた。

 この人は、魔物にも、人にも、

「どう扱うか」より先に「どう感じるか」を考える人なのだ。

 だから、怖くなかった。

 だから、触れられた。

 だから、安心して笑えた。

 ――この人のそばなら。

 私はきっと、知らない世界に触れても大丈夫なのだろう。

 そう思いながら、もう一度だけ、名残惜しく毛並みを撫でた。


読んでいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ