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第十話:双剣の女将と鉄の修行

 第十話:双剣の女将と鉄の修行(改稿)

「探し物屋のカイト」という名が街に浸透するにつれ、彼の懐には無視できない額の銀貨が蓄積されていった。

 腰に差した木剣。

 それは、かつてなら「子供の遊び道具」にしか見えなかっただろう。

 だが今では違う。あれは――虚勢だ。

 金を持つ子供は、それだけで飢えたハイエナたちの標的になる。

 路地裏で立ち塞がる影。

 突きつけられる錆びたナイフ。

 その都度、カイトは影の従魔による奇襲や撹乱で難を逃れてきた。

 だが、逃げるだけでは、いつか限界が来る。

「……はぁ」

 夕焼けの雁亭の片隅で、カイトはテーブルに突っ伏して溜息を吐いた。

「なんだい、カイト。珍しく景気の悪い音を出すじゃないか」

 ベルタが椅子を引き、彼の隣に腰を下ろす。

「……ベルタさん。僕は、人より稼ぎすぎているみたいです。そのせいで、最近よく襲われる」

 カイトは正直に続けた。

「今は従魔の力で逃げ切れています。でも……いつまでも、そうはいかない。自分の身を守る『本物の力』が欲しいんです」

 少年の切実な訴えに、ベルタはふっと口角を上げた。

「武器、ねぇ……。木剣を差してるなら、剣を教えてやろうか?」

 きょとんとするカイトを見て、ベルタは自嘲気味に笑った。

「……そうか。あんたにとっては、ただの宿の女将だもんね。

『双剣のベルタ』なんて二つ名を知る者も、もうこの街にはいないか」

 かつて戦場を蹂躙した元冒険者の瞳が、鋭くカイトを射抜く。

「いいかい、坊主。明日から朝晩二百回、その木剣を振りな。

 理屈は後だ。まずは剣を支える『土台』を作ってもらうよ」

 ________________________________________

 鉄の棒と沈黙の修行

 修行は、地味で過酷だった。

 だが、前世で人体の骨格と筋肉を熟知していたカイトは、ベルタの修正を驚くほど正確に咀嚼していった。

 どの筋肉を連動させれば、最短距離で打撃を伝えられるか。

 彼は自分の幼い体を、未完成の標本として客観的に作り変えていった。

 一年が過ぎ、木剣が羽のように軽く感じられるようになった頃。

 ベルタは無造作に一本の「鉄の棒」を差し出した。

「次は、これだ」

 受け取った瞬間、ズンと腕が沈む。

 木剣の倍以上の重み。

「……これを、同じように二百回ですか」

「頑張りな。それが当たり前になった時、初めてあんたは『鉄』を支配できる」

 修行の負担が増え、ギルドへの到着は以前より遅れがちになった。

「あら、カイト君。最近は少し遅いわね」

「すみません、ミランダさん。木剣と鉄棒じゃ、勝手が違いすぎて……」

 苦笑するカイトに、ミランダは意味深に微笑んだ。

「彼女がその気になったんだから、死ぬ気で食らいつかなきゃ。

 ……いい? 彼女、現役時代は二本の剣で巨竜の足首を断ったって言われてるんだから」

(……巨竜の、足首を)

 宿の厨房で豪快に笑う女将の背中を思い浮かべ、カイトは静かに気を引き締めた。


 さらに二年が流れ、カイトは十歳になった。

 転生時のガリガリだった面影は消え、身長は百五十センチを超える。

 服の上からでも分かるほど、四肢にはしなやかで強靭な筋肉が宿っていた。

「……あーあ。可愛かったカイト君が、こんなに大きくなっちゃって」

 ミランダが、背を追い越しそうな少年を見上げ、少し寂しそうに――それでも誇らしげに目を細める。

 十九歳になった彼女の美しさは街でも評判だが、カイトにとっては今も頼れる師匠の一人だった。

「いい筋肉だね。あんた、筋が良いよ」

 三十八歳のベルタが、馬の出来栄えを見るように肩や背中を叩く。

「ふふ、私の彼氏に見えるかしら?」

「調子に乗るんじゃないよ」

 ゲンコツが落ちる。

 そして、ある夜。

 いつものように鉄棒を振り終えたカイトに、ベルタが二振りの剣を差し出した。

 刃を潰した、全く同じ刃引きの鉄剣が二本。

「今夜、食堂が閉まったら型を教える。いいかい、カイト」

「……やっと、ですか。ここまで三年。長かった」

「基礎もできてないアンタに型を教えても、ただの踊りだからね。

 ……さて、久々にアタイも体を動かすか」

 月明かりの下。

 ベルタが構えた二本の剣が、鋭く空を裂いた。

「脳じゃない。肉体に刻み込むんだ。わかったかい?」

「……わかった」

 二本の剣の重みを両手に感じ、カイトは深く息を吐く。

 影の従魔による搦手。

 元一流冒険者から受け継ぐ、剛の剣。

 小さな探し物屋の仮面の下で――

 カイトという名の刃が、いよいよ本物として研ぎ澄まされ始めていた。

読んでいただきありがとうございます。

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