冒険者失格!?異世界は配達員と共に!
はじめまして、浜坂です!
異世界に来たはずなのに、
気づけば毎日、配達とお風呂とご飯の繰り返し。
……あれ?
これって本当に、冒険者生活なんでしょうか?
「今日もありがとうねぇ。おたくの配達は、
サービスが良くて助かるわ。はい、配達料」
「いえいえ。彼の足が速いだけですよ。
こちらこそ、毎度ありがとうございます!」
「あ、あざっす……」
本日最後の客から銀貨を受け取り、
俺と優花は揃って頭を下げた。
「それじゃあ、またお願いするわね」
「はい!お待ちしてます!」
優花が一歩前に出て、にこやかに手を振る。
俺はその後ろで、最低限の愛想を貼り付けた。
……ああ、今日も疲れた。
走りすぎて、足が完全に棒だ。
バイト未経験だった俺が、異世界で普通に労働している。
それだけで、未だに現実感がない。
◆
その日の給金を握りしめ、俺たちは街の大浴場へ向かった。
この街には浴場が七つあり、
今日入るのは――"始まりの湯"。
入浴料は少し高めだが、仕事終わりの風呂は、
一度味わうとやめられない。
「はぁぁ……生き返る……」
湯船に肩まで浸かると、
全身の疲労が、じわじわと溶けていく。
ありがてぇ……
異世界でも、風呂は正義だ。
◆
風呂から上がると、優花はいつものように、
入口で待ってくれていた。
「もう少し、ゆっくり入っててよかったんだぞ?」
「だめ。雄大君を待たせたくないもん」
……どこでそんな忠誠心覚えたんだよ。
「今日は何食べる?」
「私、雄大君に合わせるよ!」
「いや、たまには別のにしろって……
今日は、ワイルドボアのカツ定食にするか」
「じゃあ、私もそれ!」
結局、同じものを頼むことになった。
◆
食事を終え、俺たちはそのままボロ宿へ戻り、
ギシギシと嫌な音を立てるベッドに倒れ込んだ。
ぴちょん。ぴちょん。
「スラちゃん!待っててくれて、ありがとね!」
当然のように、スライムに抱きつく優花。
まあ、悪さしないなら、
大丈夫……か?
「雄大君、おやすみー」
「おう、おやすみ……
ふぅ。明日も、頑張らないとな……」
心地よい疲労感に包まれ、
意識がゆっくりと沈んでいく――
「――いや、待ってくれ」
俺は勢いよく上体を起こした。
「どうしたの?」
隣で布団に潜り込んでいた優花が、
不思議そうに首を傾げる。
「あ、スラちゃんに嫉妬してるんだね?
はい、雄大君もぎゅー!」
「抱きつくな」
慌てて距離を取る。
「そうじゃなくて……違うだろ。色々と」
「え?」
「俺たちさ。なんで普通に――
新卒カップルみたいな生活、送ってるんだよ」
沈黙。
あのスライム討伐に失敗してから、二週間。
俺たちは冒険者ギルドの紹介で、
街の各所へ荷物を運ぶ仕事をしていた。
――つまり、街の配達員だ。
俺が思い描いていた異世界ライフとは、
あまりにもかけ離れている。
「いや、俺は百歩譲っていいとしてもさ」
俺は部屋の隅を指差す。
そこには、完全に部屋のオブジェと化して、
埃を被った聖剣が立てかけられていた。
「なんで優花まで、普通に配達員やってんだよ」
「仮にも、勇者だろ」
優花は一瞬だけ目を丸くし、
それから、柔らかく微笑った。
「だって」
「雄大君から、離れたくないもん」
……重い。
「それにね」
「こういう毎日でも、私は幸せだよ?」
――違う。
そうじゃない。
「いや、そういう話じゃなくてさ」
俺は頭を掻く。
「もっとこう……異世界ならではの冒険とか」
「女神に頼まれた魔王討伐とかさ」
「てか、この街、平和すぎだろ。依頼も少ないし……」
気づけば、声が少し大きくなっていた。
――ドンッ。
隣の部屋から、壁を叩く鈍い音が響く。
◆
「……」
「雄大君」
優花は困ったように眉を下げ、柔らかく笑った。
「一旦、落ち着こ?」
「……お、おう。悪い」
俺は深く息を吐き、視線を布団へ落とす。
胸の奥に溜まっていた熱が、ゆっくりと抜けていく。
数秒間。
部屋には、何の音もなかった。
まるで、世界ごと止まったみたいに。
その沈黙を破るように、
優花が、ふと思い出したように口を開く。
「あ、そういえばさ」
「……ん?」
「雄大君って、何か願いある?」
「は?」
唐突すぎて、思考が一瞬、真っ白になる。
「願いって……いきなり何の話だよ」
「転生する時にね」
優花は顎に指を当て、首を傾げた。
「魔王を倒したら、女神様が一つだけ、何でも叶えてくれるって言ってたなーって」
――――は?
「それを!!」
気づけば、布団から半身を起こしていた。
「もっと!!早く!!言ええええええ!!」
「え、そんな大事なことだった?」
「大事に決まってるだろ!!」
「てか俺、そんな話一切聞いてないんだが!?」
「そうなの!?
てっきり雄大君も知ってるものだと思ってた!」
……理不尽すぎる。
――ドンドンッ。
再び、隣の部屋から、壁を叩く鈍い音が響く。
「…………」
俺は慌てて声量を落とし、優花に問いかける。
「つまり……魔王を倒したら、何でも願いが叶うってことか?」
「うん。ひとつだけね」
その一言で、頭の中に、無限の可能性が溢れ出す。
元の世界。
平穏な日常。
チート能力。
あるいは――。
「でもね、雄大君」
優花の声が、ほんの少しだけ低くなる。
「今の私たちじゃ、危ないと思う」
「……」
「武器も装備も、まともなのないし」
「スライム相手でも、ああだったでしょ?」
反論したかった。
スライムの件は、優花のせいだと――
だが。
俺たちが弱いのも、事実だった。
「……くっ」
「優花に正論を言われる日が来るとは……」
――認めたくないが、正しい。
「まずは装備を揃える」
「それと……仲間募集だな」
「うん。」
優花は、どこか安心したように、
そして嬉しそうに頷いた。
◆
数日後。
必死に貯めた金で、軽装備とショートソードを購入した。
防御力は最低限。
だが、ないよりは遥かにマシだ。
そして今――
俺たちは冒険者ギルドの掲示板の前に立っている。
「よし……こんなもんかな」
手書きの募集紙を貼り終え、俺は小さく呟いた。
「あ、雄大君」
「ん?」
「女の子不可って、書いとこっか?」
「やめてくれ!!」
反射的に叫んでいた。
「ただでさえ評判悪いのに、可能性を自分から潰すな……!」
「えー」
優花は心底不満そうに、頬をぷくっと膨らませる。
――その時だった。
背中に、ひやりとした感覚が走る。
誰かに、見られている。
ゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは――
白髪の三つ編み。
尖った耳。
手には、年季の入った杖。
明らかに只者じゃない雰囲気を纏った、
エルフの美少女が――
無言で。
じっと。
募集紙を覗き込んでいた。
……嫌な予感しかしない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
配達員生活が板についてきた二人ですが、
そろそろ「異世界らしい何か」が動き出します。
次回、新たな人物(?)登場――
物語が、少しずつ前に進み始めます。




