表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

冒険者失格!?異世界は配達員と共に!

はじめまして、浜坂です!


異世界に来たはずなのに、

気づけば毎日、配達とお風呂とご飯の繰り返し。


……あれ?

これって本当に、冒険者生活なんでしょうか?


「今日もありがとうねぇ。おたくの配達は、

サービスが良くて助かるわ。はい、配達料」


「いえいえ。彼の足が速いだけですよ。

こちらこそ、毎度ありがとうございます!」


「あ、あざっす……」


本日最後の客から銀貨を受け取り、

俺と優花は揃って頭を下げた。


「それじゃあ、またお願いするわね」


「はい!お待ちしてます!」


優花が一歩前に出て、にこやかに手を振る。

俺はその後ろで、最低限の愛想を貼り付けた。


……ああ、今日も疲れた。

走りすぎて、足が完全に棒だ。


バイト未経験だった俺が、異世界で普通に労働している。

それだけで、未だに現実感がない。



その日の給金を握りしめ、俺たちは街の大浴場へ向かった。


この街には浴場が七つあり、

今日入るのは――"始まりの湯"。


入浴料は少し高めだが、仕事終わりの風呂は、

一度味わうとやめられない。


「はぁぁ……生き返る……」


湯船に肩まで浸かると、

全身の疲労が、じわじわと溶けていく。


ありがてぇ……

異世界でも、風呂は正義だ。



風呂から上がると、優花はいつものように、

入口で待ってくれていた。


「もう少し、ゆっくり入っててよかったんだぞ?」


「だめ。雄大君を待たせたくないもん」


……どこでそんな忠誠心覚えたんだよ。


「今日は何食べる?」

「私、雄大君に合わせるよ!」


「いや、たまには別のにしろって……

今日は、ワイルドボアのカツ定食にするか」


「じゃあ、私もそれ!」


結局、同じものを頼むことになった。



食事を終え、俺たちはそのままボロ宿へ戻り、

ギシギシと嫌な音を立てるベッドに倒れ込んだ。


ぴちょん。ぴちょん。


「スラちゃん!待っててくれて、ありがとね!」

当然のように、スライムに抱きつく優花。


まあ、悪さしないなら、

大丈夫……か?


「雄大君、おやすみー」


「おう、おやすみ……

ふぅ。明日も、頑張らないとな……」



心地よい疲労感に包まれ、

意識がゆっくりと沈んでいく――






「――いや、待ってくれ」


俺は勢いよく上体を起こした。


「どうしたの?」


隣で布団に潜り込んでいた優花が、

不思議そうに首を傾げる。


「あ、スラちゃんに嫉妬してるんだね?

はい、雄大君もぎゅー!」


「抱きつくな」


慌てて距離を取る。


「そうじゃなくて……違うだろ。色々と」


「え?」


「俺たちさ。なんで普通に――

()()()()()()みたいな生活、送ってるんだよ」


沈黙。


あのスライム討伐に失敗してから、二週間。

俺たちは冒険者ギルドの紹介で、

街の各所へ荷物を運ぶ仕事をしていた。


――つまり、街の配達員だ。


俺が思い描いていた異世界ライフとは、

あまりにもかけ離れている。


「いや、俺は百歩譲っていいとしてもさ」


俺は部屋の隅を指差す。


そこには、完全に部屋のオブジェと化して、

埃を被った聖剣が立てかけられていた。


「なんで優花まで、普通に配達員やってんだよ」

「仮にも、勇者だろ」


優花は一瞬だけ目を丸くし、

それから、柔らかく微笑った。


「だって」

「雄大君から、離れたくないもん」


……重い。


「それにね」

「こういう毎日でも、私は幸せだよ?」


――違う。

そうじゃない。


「いや、そういう話じゃなくてさ」


俺は頭を掻く。


「もっとこう……異世界ならではの冒険とか」

「女神に頼まれた魔王討伐とかさ」

「てか、この街、平和すぎだろ。依頼も少ないし……」


気づけば、声が少し大きくなっていた。


――ドンッ。


隣の部屋から、壁を叩く鈍い音が響く。



「……」


「雄大君」


優花は困ったように眉を下げ、柔らかく笑った。


「一旦、落ち着こ?」


「……お、おう。悪い」


俺は深く息を吐き、視線を布団へ落とす。

胸の奥に溜まっていた熱が、ゆっくりと抜けていく。


数秒間。

部屋には、何の音もなかった。

まるで、世界ごと止まったみたいに。


その沈黙を破るように、

優花が、ふと思い出したように口を開く。


「あ、そういえばさ」


「……ん?」


「雄大君って、何か願いある?」


「は?」


唐突すぎて、思考が一瞬、真っ白になる。


「願いって……いきなり何の話だよ」


「転生する時にね」


優花は顎に指を当て、首を傾げた。


「魔王を倒したら、女神様が一つだけ、()()()()()()()()()って言ってたなーって」


――――は?


「それを!!」


気づけば、布団から半身を起こしていた。


「もっと!!早く!!言ええええええ!!」


「え、そんな大事なことだった?」


「大事に決まってるだろ!!」

「てか俺、そんな話一切聞いてないんだが!?」


「そうなの!?

てっきり雄大君も知ってるものだと思ってた!」


……理不尽すぎる。


――ドンドンッ。


再び、隣の部屋から、壁を叩く鈍い音が響く。


「…………」


俺は慌てて声量を落とし、優花に問いかける。


「つまり……魔王を倒したら、何でも願いが叶うってことか?」


「うん。ひとつだけね」


その一言で、頭の中に、無限の可能性が溢れ出す。


元の世界。

平穏な日常。

チート能力。

あるいは――。


「でもね、雄大君」


優花の声が、ほんの少しだけ低くなる。


「今の私たちじゃ、危ないと思う」


「……」


「武器も装備も、まともなのないし」

「スライム相手でも、ああだったでしょ?」


反論したかった。

スライムの件は、優花のせいだと――


だが。

俺たちが弱いのも、事実だった。


「……くっ」


「優花に正論を言われる日が来るとは……」


――認めたくないが、正しい。


「まずは装備を揃える」

「それと……仲間募集だな」


「うん。」


優花は、どこか安心したように、

そして嬉しそうに頷いた。



数日後。


必死に貯めた金で、軽装備とショートソードを購入した。


防御力は最低限。

だが、ないよりは遥かにマシだ。


そして今――


俺たちは冒険者ギルドの掲示板の前に立っている。


「よし……こんなもんかな」


手書きの募集紙を貼り終え、俺は小さく呟いた。


「あ、雄大君」


「ん?」


「女の子不可って、書いとこっか?」


「やめてくれ!!」


反射的に叫んでいた。


「ただでさえ評判悪いのに、可能性を自分から潰すな……!」


「えー」


優花は心底不満そうに、頬をぷくっと膨らませる。


――その時だった。


背中に、ひやりとした感覚が走る。


誰かに、見られている。


ゆっくりと振り返る。


そこに立っていたのは――


白髪の三つ編み。

尖った耳。

手には、年季の入った杖。


明らかに只者じゃない雰囲気を纏った、

エルフの美少女が――


無言で。

じっと。

募集紙を覗き込んでいた。


……嫌な予感しかしない。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


配達員生活が板についてきた二人ですが、

そろそろ「異世界らしい何か」が動き出します。


次回、新たな人物(?)登場――

物語が、少しずつ前に進み始めます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ