初依頼なんて楽勝!?冒険はスライムと共に!
はじめまして、浜坂です!
初依頼あるあるのスライム。
スライムなんて楽勝……ですよね?
「依頼……少なっ!!」
思わず、率直すぎる感想が口を突いて出た。
俺たちは今、冒険者ギルドの掲示板の前に立っている。
ずらりと並ぶ――はずの依頼書。
だが、Fランクの欄だけが、驚くほどスカスカだった。
「うーん。なんでこんなに少ないんだろうね?」
優花も腕を組み、首を傾げる。
その時だった。
「それはですね。この街――『ノースタウン』が平和都市だからですよ」
背後から、落ち着いた男性の声。
振り返ると、年上そうな冒険者が、余裕のある笑みを浮かべて立っていた。
「魔物の被害が少ない上に――」
彼はわざとらしく視線を優花へ向ける。
「勇者様が来てから、皆さん張り切ってましてね」
……あ。
これ、完全に期待されてるやつだ。
周囲の冒険者たちの視線が、ちらちらと集まる。
ひそひそとした声が、嫌でも耳に入ってきた。
「勇者様らしいぞ」
「本物か?」
「新人でも、すぐAランク行くだろ」
やめてくれ。
まだ、何もしてない。
「へぇ、そうなんですか」
俺が曖昧に相槌を打つ横で、優花は少しだけ胸を張った。
「勇者様……と、えーと……」
男性冒険者は一瞬だけ俺を見る。
そして、言葉を慎重に選んだ末――
「……荷物持ち、でしたっけ?」
……言い返せないのが、余計に腹立つ。
ちらりと横を見ると、優花の口角がぴくりと動いた。
あ、これヤバいやつだ。
「今、雄大君のこと……荷物持ちって言いま――」
「へぇ!!平和って素晴らしいですね!!」
俺は全力のオーバーリアクションで被せた。
「教えてくれてありがとうございます!!」
急にテンションを上げた俺に若干引きつつ、男性冒険者は「では、ご武運を」と言い残し、その場を離れていった。
……助かった。
「あの人、ちょっと酷いよね」
優花はまだ納得いってない様子だ。
「雄大君には、雄大君にしかできない役目があるのに」
フォローになってるようで、全然なってない。
「よし」
俺は気を取り直し、掲示板に向き直った。
「じゃあ、定番のやつから行こうか」
Fランク依頼の中でも、ひときわ見慣れた文字。
――スライム討伐。
定番。
初心者向け。
誰でもできる……はずの仕事。
「うん!最初はスライムだよね!」
優花は楽しそうに頷く。
「ふふふ。初依頼の達成祝い、何にしようかなぁ。」
いや、まだ戦ってもいないんだけど。
……うん。
もう、嫌な予感しかしない。
◆
「雄大君、この草原……寝っ転がると気持ちいいね。眠くなりそう……」
「スラちゃんも、そう思うよねー?」
ぷに、と。
腹の上のスライムを撫でながら、優花は心底幸せそうに笑った。
「……どうして、こうなった」
青空。
草原。
どこまでも続く、あまりにも平和な景色。
――そして。
俺の腹の上で、
ぷるぷると自己主張する半透明の青い物体。
……説明しよう。
事態は、十分前に遡る。
◆
スライム討伐の指定場所は、街から少し離れた草原だった。
「本当にここで合ってるのか?」
「うん!依頼書どおりだよ!」
……平和すぎる。
魔物が出る気配なんて、微塵もない。
その時――
ぴちょん。
草むらの奥から、
半透明の青い塊が、にゅるりと姿を現した。
「出たな。スライム」
「よし、優花。討伐――」
「え……」
俺の言葉を遮るように、優花の目がきらきらと輝いた。
「スライム、めっちゃ可愛い!!」
「は?」
「見て見て!ぷるぷるしてる!」
「丸い!つやつや!このフォルム、反則じゃない?」
しゃがみ込み、距離ゼロ。
スライムも嬉しそうに、ぴょん、と跳ねた。
「いやいやいや」
「優花、討伐だぞ? 討・伐!」
「えー?嫌だけど?」
即答だった。
一ミリも迷いがない。
「だって、こんなに可愛いんだよ?」
「可愛いものは守ってあげないと!」
「勇者が言うセリフじゃねぇ!!」
「ペットにしちゃお!」
「名前はね――スラちゃん!」
「勝手に決めるな!!」
俺が叫んでいる間に、スライムは俺の足元まで近づいてきた。
ぴちょん。ぴちょん。
「ちょ、来るな来るな!」
「俺、武器持ってないんだけど!?」
「大丈夫!」
「私が守るから!」
そう言って、優花は聖剣の柄を両手で掴む。
――ずるっ。
「……あ」
聖剣は、地面から一ミリも動かなかった。
「よいしょ……」
「よいしょ……!」
「……重い」
「知ってる!!」
その間にも、スライムは俺の靴に張り付く。
ぷに。
「うわっ!?」
「ぬるぬるする!!」
「ほら見て!雄大君、懐かれてる!」
「懐くな!!」
「それ敵!!」
必死に足を振る俺の横で、優花はなぜか腕を組み、真剣な顔をしていた。
「ねぇ雄大君」
「この子、倒す必要ある?」
「あるに決まってるだろ!!」
「でもさ」
「依頼って、“この場所にスライムがいて困ってる”ってことだよね?」
嫌な予感が、背骨を駆け上がる。
「つまり……」
優花は、満面の笑みで言い切った。
「私たちが連れて帰ったら、ここにはいなくなる!」
「依頼成功!」
「成功じゃねぇ!!」
「それが通るなら、魔王も引っ越せば平和だろ!!」
その瞬間。
ぷるん。
スライムが勢いよく跳ね、俺の腹に着地した。
「うおおお!?」
「優花ぁ!助けろぉぉ!!」
◆
「えっと……依頼の件ですが……」
冒険者ギルドに戻ると、
受付のお姉さんは、何か言いたげな表情で、
優花が抱えるスライムをチラチラと見ていた。
「……スライム討伐の証拠が、ありませんので……」
「報酬は……なし、となります……」
……ですよね。
「そ、そうですか……」
俺が乾いた笑顔で答える横で――
「えへへ、こういう時もあるよね!」
優花は、まったく気にしていない。
いや、少しは気にしてくれ。
「でもね!」
優花は胸を張って言う。
「雄大君もスラちゃんも無傷だったし、大成功だよ!」
「どこがだ!!」
受付さんは一瞬こちらを見て、
そして――そっと視線を逸らした。
……やめろ。
その「色々察しました」みたいな目。
その日、ギルド内では、
俺たちの噂が驚くほどの速さで広まったらしい。
「スライムをペットにした勇者と一般人」
「勇者様、倫理観バグってる問題」
「というか、一般人の方がまだ戦えそうじゃない?」
――優花の“勇者補正”、終了。
主に、世間的な意味で。
……俺の冒険者人生、
始まる前から詰んでないか?
◆
痛い視線から逃げるように、
俺たちはギルドの外へ出た。
「あれ?」
歩きながら、ふと思い出す。
「俺たち、今日の宿代どうするんだ?」
「この聖剣、売ればいいんだよ?」
「売るな!!」
「それ売ったら、俺たちただの無職カップルだろ!!」
「じゃあ、明日からどうするの?」
……聞かないでくれ。
こうして、俺たちの冒険者生活が始まった
――いや、始まってすらいなかった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
スライムをペットにした二人。
今後どう生活していくのでしょうか?
冒険者をやっていけるのか……
次回もお楽しみに!




