好きボタンが壊れてる男
恋白高校二年三組窓側一番後ろの席。よくあるアニメや漫画の主人公席、春は暖かい風が入り、窓から季節による学校の景色が見える特等席。これはそこの席で行われる、馬鹿な男子二人のお話。
昼放課、周りが騒がしい仲。黒髪のフツメンと言われるであろう男と、遠目でも整っていると分かる茶髪の男が二人。黒髪の男の名は丹後光輝、茶髪は 浅羽綾人という。
光輝が一つ前の椅子を反対にさせ、一番後ろの席を机にし二人で昼飯を食べていた。否、食べているのは綾人だけで光輝は、ため息をつきながらどこかに想いを馳せていた。
しばらく無視を決め込んでいたが、あまりにもウザったらしかったため頭を叩いた。
「はっ?!なんで??!」
頭を叩かれた光輝は机を手でバンっと叩き、立ち上があった。そんな光輝を無視し、綾人はスマホを見ながら紙パックジュースをすする。
「ウザイ」
「そこは、何があった聞く所だろ!」
ウザいと言われ、頭を抱えながら座り直す。そして話を聞いてない綾人のスマホを奪い取り、怒っている綾人を無視して、先程の想いを馳せる顔に戻り窓を見つめる。
「恋をしちゃったんだ」
聞かれてもいないのに答える光輝に綾人は、無視しながらスマホを返せと機嫌悪く言う。
「そう、あれは昨日のこと」
勝手に回想シーンに突入する。
母親に買い物を頼まれた光輝は面倒くさそうにしながら、小さな地元のデパートに訪れていた。普段なら一人で入りたくないのに、綾人は一緒に帰れないと言うので一人寂しく買い物をする。
「重っ、買い忘れたとかって量じゃ絶対ないだろ」
『こんにちは』
重い荷物に不満を募らせ、ブツブツ言っている光輝にイントネーションが独特な挨拶を誰かがしてきた。光輝は直ぐに振り返り、挨拶をし返す。
「あ、こんにちは」
『今日は、いいお天気ですね。何かご用事はありますか』
「へ、あの」
いきなりナンパのように誘われ光輝は顔を赤くする。こんな堂々、しかも小さなデパートでなんて、大胆すぎる。
「買い物の帰りで…」
デレデレしながら光輝が返す。ナンパされて嬉しくない男などいないだろう。その場には他にも人がいるだろうに、光輝には二人だけの声しか聞こえなくなっていた。完全に二人の世界だ。
『エラいですね。またお待ちしております。』
その子はまん丸なおめめで微笑むように首を傾げた。
「は、はいっ」
顔を更に赤くし声を裏返しながら光輝は、その“ロボット“から逃げるように外に出た。
「あの子も絶対、俺の事好きなんだよな」
困っちゃうぜ、と顔を緩ませた光輝の頬をビタンと一発お見舞いする。
「今日暴力多くない?!」
殴られた光輝は酷いとばかりに殴られた頬を抑えながら綾人に訴える。そんな綾人はビンタした勢いで取り返したスマホを机に置き、光輝に冷たい目線を送る。
「ロボットじゃねぇか」
そう、ロボットだ。最初から最後までただのロボットなのだ。しかもナンパなんかしていない、おそらくただのお助けロボット。何かご用事はあるかという質問は、光輝のその後の予定を聞いているのではなく、自分への用事だし、またお待ちしておりますはただの接客だ。誰がそんなロボットに恋をすると思うだろうか。頭のおかしな友人に綾人は頭が痛くなってきた。
「頭痛くなってきたわ」
「大丈夫か?」
「お前のせいだよ」
光輝と喋るとイライラする、綾人は紙パックを握りつぶしたくなる衝動を必死に抑えた。こんな話などで自分の紙パックジュースを無駄にしたくなどない。
今の話を全部ロボットに置き換えるとただただ光輝がやばいやつだ。途中光輝が2人の声しか聞こえなくなったのは、恐らくドン引いた周りが離れていったからだろうし、もう友達辞めようか、と本気で悩んでくる。
「あそこで会ったのは運命だったんだろうな」
「安い運命だな」
綾人の声など聞こえていないように光輝は一人、喋り続ける。
「昨日、お待ちしております。って言ってたんもな、彼女は今日も俺を待ってる。放課後に行かなくちゃだよな」
「もう告白しかないか、彼女も俺の事好きなんだし、早い方がいいよな。」
困っちゃうぜ、と鼻の下をかく。そんな光輝を綾人は完全に冷たい目でみる。
「通報されればいいのに」
心からのお願いである。今回はロボット相手だからまだ良かったものの、もし人間ならとんだ勘違いのストーカー野郎などになっていてもおかしくない。少し喋りかけただけで好きとか勘違いされるの普通にキモイだろ。
考えれば考えるほどめんどくせなり、もういいやとスマホを弄りはじめる。光輝は気にせずキラキラした眼で綾人のことを見る。
「綾人もきっと気に入ってくれるはずだ!」
「…は」
綾人が思わず動かしていた指を止め、光輝をみる。
「お前、もしかして俺も連れてくつもり?」
「あったり前だろ!お前今日用事ないんだし、俺の彼女(予定)を見て欲しいし」
「勘弁しろよ」
一緒に行くと頭のおかしな人間の友達だと思われるだろう。嫌すぎる、しかしロボット相手に本気の告白する人間とか面白すぎるため見たい気持ちもある。
「仕方ねーな」
妥協案として、同じ高校とバレないよう少し暑いがパーカーをかぶることにした。頭のおかしな告白をカメラに収めて楽しむ方が少しの差で勝ったのだ。
ドキドキしながら歩いている光輝の後ろを、気だるそうに綾人がポケットに手を入れながらついて行く。
「やばい、ドキドキで死にそう。俺の初彼女楽しみ」
「お前の人生楽しそうだな」
落ち着かせるように心臓を抑える光輝にはもはや呆れしかでない。恋は盲目とはいうがここまでとは
「あっ、いた」
光輝がバレないようにサッと隠れる。綾人は隠れることなく、隣でそのロボットをみる。よくある小さいサイズのロボットだ、会話ができるレベルで高度なAIでもない、どこに恋をする要素があるのか
「なんで隠れんだよ」
「いきなり行ったら驚かれるだろ!」
「驚かねぇよ、ロボットだから」
あわあわして全く動かない光輝に痺れを切らし、足で背中を押す。
「ぐあっ、何すんだよ」
普通に痛い蹴りに対し怒りながら綾人を見ると、はよいけと顎で指示された。指示されて動くことは面白くないが、実際ここまできたら遅いか早いかだけでもうやるしかない。
ロボットは一人(?)ポツンと置かれていた。そのロボットに向かい、緊張して手と足が一緒に動いている光輝を後ろから盗撮する。
「あ、あの!」
近くに来て声をかけた光輝を検知してロボットが振り返える。
『こんにちは、なにかご用事ですか?』
ロボットによくある定型文を返される。やっぱり心ないじゃんと綾人は思うが、光輝にはそんなこと関係ない。
「えっと、昨日お話した光輝と、も、申します。」
話したと言ってもほんの数言だろうに。
「それで、昨日はまさに運命の出会いだったと思うのですが、その運命に身を任せよろしければお付き合いいたしませんか?」
最後まで言い切った光輝は勢いよく頭を下げ、手を差し出した。余りに痛々しい告白に対し、笑いを必死に堪えながら綾人はカメラを回す。
『すみません、聞き取れませんでした』
ロボットの返答に綾人は耐えきれず、腹を抱えて崩れ落ちた。一世一代の告白はロボットにはまだ早かったらしい。
「ママ、なにあれ」
「しっ、無視しなさい」
ロボットに告白する光輝とそれを見て崩れ落ちている綾人は目立っているが本人たちはそれどころじゃない。
「聞こえなかったのか…」
光輝は真剣に聞こえなかったと判断して、悔しそうな顔をする。そしてもう一度頭を勢いよく下げる。
「俺と付き合ってください!!」
先程よりも大きい声、とてつもない迷惑。色んな人の目線が集まってくる。綾人は知り合いだと思われたくないから少し離れたいが、笑いすぎてお腹が痛いため動けない。
『ごめんなさい、もう一度お願いします。』
このロボット鬼畜だ
「好きなんです!あなたのことが!」
そしてめげない光輝
『ごめんなさい、よく分かりませんでした』
それでいてこの鬼畜ロボット、このロボット本当は心あるんじゃないか。綾人はゲラゲラ笑らう、やはりついてきてよかった。
諦めきれない光輝がもう一度告白しようとした時、光輝の肩に手が置かれた。光輝がすぐに振り返るとそこにいたのは怒筋を浮かべた店員が
「おかえりくださいませ、お客様」
光輝はデパートの外で項垂れていた。怒られた光輝は流石に居続ける程の勇気はなく、綾人を連れて外に避難したのだ。
「一体何がダメだったんだろうな」
本気で悩み、空を見つめ哀しそうな表情を浮かべる光輝に綾人がぷッと吹き出す。
「全部だろ」
「彼女も俺のこと思っていたはずなのに、こんな風に引き裂かれるなんて運命って辛いな。これが恋」
こいつはいつポエマーになったのだろうか。
「もうやめろよ、お腹痛てぇよ」
笑いすぎて
「大丈夫か?」
「お前のせいだわ」
心外だと言わんばかりの顔をするが、何言っても無駄だと分かっているのでもういいよ、と無視をする。光輝は納得いってないようだが、またロボットに頭を切り替える。
「よし、今日は諦めよう。次は明日だ」
「やめろ、その内訴えられる。」
冗談抜きにだ。
「なんだお前も俺と彼女の仲を引き裂こうというのか!」
「始まってすらねーよ」
何に夢見ているというのだこいつは。あんな鬼畜ロボットに。
「少し冷静になるために数日あけろ、下手すれば出禁になるぞ。今イエローカードなんだから」
「それはまずいな、彼女と会えなくなる」
光輝は出禁と聞いて手を口に持ってきて考える。
「なら、今日一目だけ見てしばらくは諦める!それでどうだ?!」
イエローカード出されてるのに強い男である。
「いいんじゃね」
だいぶ面倒くさくなってきたから
「よし、行くぞ」
「俺も行くの」
光輝は綾人の首根っこを掴み引き摺りながら、もう一度デパートに入った。ロボットは先程と同じところにいた、
「声掛けんなよ、まじで出禁喰らうぞ」
「分かってるよ」
光輝はロボット遠目なら眺め、はぁとため息をつく。
「こんなに近くにいるのに会えないなんて、なんて切ないんだ」
頭が本当におかしい、モテなさすぎてロボット相手に恋するとか終わりすぎている。やってることはただの粘着ストーカーだ。
綾人は首が苦しくなってきたため、光輝の手を強引に離させ、立ち上がった。
「はよ、帰ろーぜ」
こんなデパートにどれくらい滞在するつもりなのだ。お腹が空いてきた。
「仕方ない」
光輝は名残惜しそうな顔をして、反対を向き出口に向かおうとした。が、その時だった。
『こんにちは。今日は、いいお天気ですね。何かご用事はありますか』
ロボットが喋り始めたのだ、しかし相手は光輝ではない。
「うおっ、すっげぇ。こんな所にロボット設置したのか」
「めっちゃ定型文」
「ちっちゃ、かわいい〜」
男子高校生三人組、高校生らしくゲラゲラ笑いながらロボットと話をしている。光輝以外も喋りかけるんだな、と綾人が光輝を見た時光輝は凄い嫉妬に歪んだ顔をしていた。
「どうしたんだ、お前」
「彼女、アイツらにもナンパした」
「は?」
どこがナンパだとというのだ、と言いたくなったが思い出した。確か光輝はこの言葉でナンパされたと勘違いして、そのまま急スピードで恋に堕ちたのだ。
「クソっ男なら誰でもいいのか!あの女!!」
「ナンパじゃねーし、ロボットだから」
綾人のツッコミも光輝には届かない。光輝はロボットに向かって叫ぶ
「俺からお断りだ!!!このクソビッチ!!!!」
「お客様ァァ!!」
デパートは無事出禁になった。




