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定規座

エレベーターの中でまず最初に話しかけてきたのは五十嵐先輩だった。


「てか桜庭君まだ15なんだね!」

「そっすね、今日が中学の卒業式でした」

「へ~!若いのにこんな仕事なんて苦労人だね~」

「いやパイセンも1年しか変わんねーじゃねっすか」

「まーそれはそーなんだけどねー」


五十嵐先輩は笑いながらそう答えた。「やっぱここの雰囲気は好きだなぁ」なんて思っている矢先だった。俺は何か嫌なものを感じた。こういう時の嫌な予感はだいたい当たる。昔っからそうだった。そんな俺の憂いを遮るようにエレベーターは地上へと到達した。


「ばぁ」


俺は一瞬思考が停止した。エレベーターの扉を抜け、建物を出てからすぐだった。俺たちを待ち構えていたのは謎の長髪男だった。そしてその斜め後ろには短めの茶髪とセンター分けの黒髪がいる。俺は察した「刺客だ」その瞬間先輩たちは既に動いていた。黒瀬先輩の前蹴りが飛ぶ。長髪男はそれを笑みを貼り付けたまま受け止め、そのままの勢いでバックステップをした。


「まあまあ落ち着いてえや」


長髪男がニヤニヤした口調で喋り出す。


「俺は星河団の佐久間悠大(さくまゆうだい)っちゅうもんや。せやけど喧嘩しに来た訳ちゃうねん。まああれや、ここで話するんもアレやし、場所変えよか。田中!中田!やってくれ!」


そう言ったと同時、取り巻きたちの纏う雰囲気が変わった。そして茶髪の方が口を開いた


「ああ尊きジェミニよ我々にその御力をお貸しください」


そして俺達の足元に大きな魔法陣のようなものが浮かび上がる。止めに入ろとしたが一歩遅かった。俺達は気づけば廃工場にいた。場所はそこまで遠くないがアジトから2kmは離れている。


「すごいやろ?こいつらは今、双子座の星の子、正確に言うならその化身と契約しててな。代償を支払ってその力を一部だけ使えるねん。」


佐久間は意気揚々と語る。先輩たちはただただ冷静に状況を分析している様子だった。


「ほんで話の続きしようか。端的に言うとな、そのガキの身柄を渡してほしいねん。」


そのガキというのは間違いなく俺の事だろう。黒瀬先輩が冷たく返す。


「桜庭は既にウチの組織の仲間だ。それは聞き入れられないな。」

「あららら。それはショックやわあ」

「それに、仮にこいつが赤の他人だとしてもお前らみたいな奴に渡すわけがないだろ」


それを聞いた佐久間はため息をついた。


「はあ、喧嘩はしとおなかったんやけどなあ、」


佐久間はファイティングポーズをとる。


「交渉決裂や!!力づくで奪ったるわ!安心しいや…」


瞬間、佐久間が駆け出す。


「殺さん程度にしたるけんのお!!」


佐久間が勢いのまま黒瀬先輩を目掛けて殴る。黒瀬先輩はバックステップでそれを躱す。その拳は衝撃波が出るほどの勢いで地面に叩きつけられた。


「素早いやっちゃのお!!」


黒瀬先輩は迎撃の蹴りを放つがいとも簡単に弾き返された。と同時。四条先輩が突っ込む佐久間目掛けて突っ込む。しかしそれはセンター分けの方に防がれてしまった。


「お前の相手は俺や」


そのまま戦闘にもつれ込んだ。殴り合い蹴り合いの応酬が繰り広げられている。


五十嵐先輩と内海先輩は茶髪の方へと向かって行った。その瞬間、俺の目が横からの攻撃を捉えた。


「陽翔!!」


黒瀬先輩が叫んぶ。それより早く俺はしゃがんで躱す。


「なかなかええ反応速度や!!」


攻撃を仕掛けたのは佐久間だった。


「気をつけろ。アイツは相当強いぞ」


佐久間は嬉々として話す。


「星の子2人相手はキツいけどなあ!しゃあないけんやったるわ!!」


この戦闘で武器を誰も使わないのは「命の奪い合いはしない」と宣言した故の暗黙の了解のようなものだ。俺も佐久間に向けて拳を放つ。驚くほど硬い。「こいつ硬すぎんだろ!さっきから黒瀬先輩の攻撃をあれだけ受けてるのにダメージが入ってる感じもないし」そんな事を考えていると、佐久間が口を開いた。


「俺は盾座の星座の化身に憑依されとる。そんじょそこらの甘っちょろい攻撃なら効かへんで」

「はっ、そうかよ俺らをそんじょそこら奴らと一緒すんじゃねぇぞ」


黒瀬先輩が佐久間に啖呵を切った。


「陽翔!二人でアイツを倒すぞ」

「おうよ!!」


俺は「これはキツい戦いになるな」そんな風に考えていた。でも不思議と負ける気はしなかった。


一方その頃四条はセンター分けの男と戦闘を繰り広げていた。


「俺は中田や。まあ別に覚えんでもええわ。ただ喧嘩するだけやからな」


そう言うと中田は四条目掛けて走り出す。それに呼応する様に四条も走り出す。そして殴り合いの大乱闘だ。


「嬢ちゃんなかなかやるなあ、けど、動きがちょっと固いんとちゃうか?」

「どうだかな」


事実四条は少し動きずらそうにしていた。だがそれでも優勢なのは四条の方だった。一旦示し合わせたように二人が距離をとる。その際に四条は中田の右腕に手の平で触れた。


「動きはそこそこ厄介だが、対処出来ない程では無い。おそらく双子座の力を使うのには詠唱と代償が必要。代償が何なのかは不明だが、そんなにポンポン使えるものでも無いだろう。黒瀬たちの加勢にも向かわなければならない」四条は静かに分析していた。そして四条が弾き出した結論は、「一気に畳み掛ける!!」今度は四条から仕掛ける。中田に向かって走り出す。呼応する様に中田が前に出る


「第2ラウンドと行こか!」


その瞬間だった。四条が一気に加速した。そしてその拳は先程触れた中田の右腕に最短距離の直線で到達した。鈍い音が響く。


「ぐお!」


苦悶の表情を見せる中田を尻目にそのまま背中に触れる。


そして通り過ぎた後、再び最短距離での攻撃を放つ。今度は背中に拳が突き刺さる。


「ガハァ!!」


中田は前のめりに吹き飛ばされた。


四条凛の星座の力。定規座の力は、まず四条が触れた位置を"終点"と定義する。そして数秒のインターバルの後に今度は触れた位置に"始点"を定義する。"始点"は空中に定義する事も可能である。四条が定義した"始点"に再び触れた時、最短距離で"終点"まで高速移動をする。なお、この直線移動は"始点"と"終点"の距離が近いほど速度が上昇する。


「なるほどなぁ、だいたい分かったで、触った位置にまた戻ってくるんやろ?」


中田がよろけながら少し掠れた声で言う。


「でももう喰らわへんで、要するに触らせんかったらええ話やろ!!」


中田は四条からさらに距離をとる。そして口を開く


「ああ尊きジェミニよ我々にその御力をお貸しください」


その瞬間、中田は四条の背後に瞬間移動した。


「そこには既に見えへん陣が敷いてあったんやわ!」


中田は「とった!」と確信した。が、中田の拳が到達するより先に、四条の拳が中田の右肩を捉えた。中田が今度は逆方向に吹き飛ばされる。


「はぁ...?」

「何も別に手の平で触れないと発動出来ない訳じゃない。」


既に中田には大量の"終点"が定義されている。そして中田が飛ばされた先は、最初に殴り合いを繰り広げた場所である。そしてそこには既に"終点"の数だけの"始点"が定義されている。最初の殴り合いの中で四条は触れないように"始点"を定義し続けていたのだ。


「終わりだ」

「クソがぁ...!」


中田に向けてラッシュを放つ。文字通りボコボコにされた中田は完全に伸び切ってしまった。完勝である。





















最後まで読んでいただきありがとうございます。

次回の更新予定は11月9日(日)です。

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