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境界の扉

薄曇りの午後、町外れにある古びた神社へと続く坂道を、少年が自転車を漕いでいた。

 その少年――篠宮颯太しのみやそうたは、ぎこちないペダルのリズムを刻みながら、周囲を気にするように何度も振り返った。背中には小さなリュックサック。中には、親に隠れて持ち出したカメラと三脚が収まっている。


「大丈夫、誰も追ってきてない……はずだよな。」


 颯太はそう自分に言い聞かせると、もう一度振り返り、息を整える。今日、神社に来たのは一つの目的のためだった。


 ここ最近、颯太の住む町では奇妙な噂が広がっていた。「神社の奥にある祠で夜を過ごすと、幽霊が出る」。その噂を学校で聞いた颯太は半ば興味本位で調査を思いついたのだ。


 自転車を降り、苔むした石段を登る。古い石灯籠が両脇に立ち並び、木々の隙間から薄い光が差し込んでいる。神社は人の手があまり入っていないのか、草木が伸び放題で、空気には湿気が漂っていた。


「ここで幽霊なんか出たら、それはそれで面白いよな。」


 そう呟きながら、颯太は一歩ずつ祠へと近づいていった。しかし、彼の目に飛び込んできたのは、思いもよらない光景だった。


 ――誰かが、すでにそこにいた。


 小柄な少女が祠の前に座り込んでいる。肩まで届く黒髪に、膝を抱えた姿。顔は見えないが、その肩が微かに震えているのが分かった。


「え……?」


 颯太は思わず声を漏らしたが、次の瞬間、少女がこちらを振り向いた。その顔には涙の跡が残っており、目は赤く充血している。


「……篠宮?」


 声をかけられ、颯太は動揺した。どうして名前を知っているのか、そして、この少女がここにいる理由は何なのか。


「えっと……君、どこかで会ったことあったっけ?」


 彼が尋ねると、少女は少し驚いたような表情を見せた後、ゆっくりと口を開いた。


「私だよ。三谷沙良みたにさら……覚えてない?」


 その名前に、颯太の記憶が一気に引き戻される。沙良は彼の幼馴染であり、数年前に遠くの町へ引っ越していったはずだった。


「なんで、ここに?」


 問いかけに答える代わりに、沙良はそっと目を伏せる。そして彼女の隣にある祠を指差した。そこには、何かが輝いていた――薄い光を放つ、小さな鏡だ。


「この鏡、持ち出したら……変なことが起きたの。」


 颯太が鏡に触れようとした瞬間、空気が震えた。視界がぐにゃりと歪み、耳元で遠くの囁き声が響く。


 次の瞬間、二人の足元に青白い光の円が浮かび上がった。


「颯太、危ない!」


 沙良が叫ぶ間もなく、二人は光に飲み込まれた。そして、目を開けた時、そこは――現世ではない、不思議な風景が広がっていた。

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