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15.悪手だよスライムくん



「おいおい、ジュワール合体しちまったぞ? 大丈夫かよ」

「合体したジュワールはレベル1で倒せるような魔物じゃないよね〜。どうする?レイダ」


 力試しの為にこの平原まで連れてきた青年の前に現れた3mを超える魔物。それを見ながらレイビンとエリーヌは声を上げた。

 実はこの平原にいるジュワールは比較的強い。冒険者になりたての低レベルの者達はここの平原よりも1つ手前にある小さな林のジュワールを狩る。そこのジュワールは合体なんてしない。しかし今回は、あの青年がそれなりに戦えると言ったからこの平原の方に連れてきたのだ。

 そして彼は楽々とそのジュワールを魔法で倒していた。それだけでレベル1にしては及第点だ。

 

 合体したジュワールはそれこそレベル低い冒険者の登竜門になる魔物だ。体の至る所から毒を吐き、それに当たると皮膚が少し溶ける。火傷をしたようにただれてしまう。更にジュワールを倒すためには核を壊す必要があるのだが合体すればその核が合体しただけ増える。今回は多くのジュワールが合体し3mにもなってしまっている。


「京太郎がまずそうになれば助けに入る。2人も準備をしておいてくれ」

「分かった。そうなった場合俺がスキルで突っ込むから、レイダはそれに合わせてくれ」

「了解だ。エリーヌは傷を負った京太郎の治癒を頼む」

「了解よ〜」


 できることなら助けに入るような事にはなって欲しくない。そう思いながら剣に手をかけ、京太郎を見ていた。


 



 ※※※




 目の前に現れた3mほどの合体スライム。

 うようよとその場でゼリー状の体を揺らしている。かかってこいとでも言わんばかりだ。合体しただけで随分と強気なっている。


「『炎球』」


 試しに、『火球』の次に簡単な『炎球』を投げてみる。

 炎の球は真っ直ぐにスライムへと向かい、当たると同時にボシュッという音を立てて消えた。霧散したと言うより飲み込まれたといった表現の方が近いだろう。


「へぇ、面白そうだなお前」


 思わず言葉が漏れてしまう。どの程度まで魔法を飲み込むのかを試したいところではあるが、この程度の魔物は瞬殺できたほうがいいだろう。

 …あと1回だけ試そう。


「『氷槍』」


 氷で出来た槍を2本ほど作り出し、飛ばす。

 先程の『炎球』よりも高位の魔法だ。槍はスライムに向かい、1本はボシュっという音を立てて消えた。しかし、もう一本は突き抜け、ガキンッと音を立てて何かを壊していた。


 …同時には吸収出来ないか、一度に吸収できる魔力量に限りがあるかってところかな。


「む」



 俺なりの考察をしていると、何かを壊され怒ったのかスライムは至る所から毒を噴射した。スライムの体に少しだけ空いた穴から毒を噴射させている。

 毒が当たった草木が少しだけ溶けているのを見ると酸性の毒で、小さいスライムよりは毒性が強いらしい。


 毒は俺にも降りかかったが先程も使った防護魔法でなんら問題は無い。


「お」


 毒を撒き散らしながらスライムは上空へ飛んだ。俺の方向へ向かって落ちてきていることから俺を押しつぶすき満々と言った感じだ。


「自由落下は悪手だよ、スライム」


 戦闘中に飛び上がり落下するだけの攻撃など悪手でしかない。落下位置の予測ができるし、何しろそれを変更できないからだ。


「『氷凍槍』」



 先程と同じような氷の槍を生み出す。数は先程とは違い、10数本の槍が浮かんでいた。

 その槍は数本が襲い来る3mの巨体に向かって直線的に飛び出て、残りの数本は巨体の上空まで移動し降りかかる。


 そして、結果的に槍は四方八方からスライムに刺さる。俺を押し潰そうとしていたスライムは俺に到達することなく、上空で撃ち落とされ、地に落ちた。

 そして、突き刺さった槍により、徐々に凍っていく。この『氷凍槍』は突き刺した対象を凍らせる。その効果が今発揮されていた。



「ーーーーーー!」



 再びモスキート音のような音を出すスライム。

 これは恐らくスライムの鳴き声なのだろう。断末魔のように聞こえるそれはスライムが完全に凍ると同時に聞こえなくなった。


「よし、終わりだな」



 俺はスライムが完全に凍るのを見届けたあと、踵を返してレイダ達の元へと向かって足を踏み出した。

 しかし、その足を止める。近くでガサリっと音がしたからだ。多くのスライムがここにいると知っていたがまだ居たのか。大方のスライムは氷海で凍らせて残りは合体したと思っていたのだが。

 

 どうせなら、倒しておくか。報酬はスライムから取れる功績の数だし。


 そう思って振り返った先には目を疑う魔物がいた。



 

 小さな小さな、金色のスライム。



 

 プルプルと体を揺らすそれはどこから現れたのか分からない。知らない間に近くの森林から来たのだろうか?


 その不思議なスライムはぷよぷよと跳ねながら凍った合体スライムや、小さなスライムに近づきじっと観察するように止まっていた。



 そして。こちらを向いたように見えた。



 

「逃げろ! 京太郎!!!!」

「え?」 



 後ろから聞こえたレイダの焦ったような声。

 それに気づき、振り返るより先に、俺の視界は真っ白に包まれていた。







 ※※※



「おお、あいつ中々やるな〜。合体したジュワール相手に余裕だぞ」

「ああ、ここまでとはな。思ってもいなかった」

「これは逸材を見つけたかもね〜」


 レイダ達は上機嫌だった。合体ジュワールが現れた辺りから少し緊張感が走っていたが、彼は簡単に倒してしまった。それもかなり余裕そうな様子で。途中、少し何かを試していたようにも見えた。

 レベル1で合体したジュワールをあんなに余裕そうに倒す人は見たことがない。そんな逸材を見つけられたことにレイビンもエリーヌも喜んでいた。


 

「ん? なぁおい、レイダ」



 彼を加入させることは決定として、彼を加えたパーティでどのように戦うかを考えていたレイダの耳に、レイビンの声が入る。その声はどこか固く、緊張しているようだった。


「どうした」

「あのスライムって」


 レイビンは指さす。

 その先にはこちらに向かって歩こうとしている京太郎と




 金のジュワールがいた。




 

「まさか…」

「そのまさかだ、レイダ、行くぞ!」


 瞬間、レイビンが彼を助けるために走り出す。

 しかし、金のジュワールはもう臨戦体制に入っている。今から走り出したのでは間に合わない。


 

「逃げろ! 京太郎!!!」



 かつてないほどの声量で叫んだ。

 なぜ、あの魔物がこんなところにいる。なぜこんなに都市から近いところにいる。

 そんな疑問が頭をよぎると同時に、激しい光と衝撃波がレイダ達を襲った。





 


 金のジュワール。

 ジュワール達の頂点に立つその魔物は、同胞を殺したものを屠る為に、()()を行使したのだった。


 


 

  

 

 

 



 

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