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第73話 地方掟


 これは200年前に、ダンジョンが発生した混沌の時代のお話である。


 日乃本国内でもモンスターによる様々な動乱が発生し、国としてではなく県、地方、村単位で分断されてしまうという時期が存在していた。


 国からの支援は得られず、孤立した地域でダンジョンに応戦し、そして辛うじて生き残ってきた者たちの血筋が200年経った今でも存在している。


「って聞いたらチート一族かと思うけど、別にそんなことは無い」


:バッサリ言い切ってて草

:ええ……

:恵右ちゃんもそんなとこ生まれだから強いのでは?

:今日のご飯代 ¥1000

:その程度で恵右ちゃんの飯代になるか


「上京して知ったけど、ああいうところが因習村ってやつだったんだなって」


:どんな村だったんだよ

:そもそもダンジョン隠してた時点で相当アレ



 ポリポリとお菓子を食べながら自室で雑談配信を行う雁木恵右がそのうちの一人である。


 身体を酷使させないようダンジョンに潜らない日を事務所から定期的に決められており、飯やお菓子を食うだけでは怒られるため雑談配信を行っているのだ。


 喋ることはそこまで得意ではないとはいえ、ここ最近は食べ尽くし…………ではなく食べ歩きをレポする動画もいいんじゃないかと先輩である坂神あかねから提案されて実践している。


 恵右の場合は量を重視しており、味は二の次かと思いきや事細かに感想や意見を述べるためグルメ界隈の一端に参入出来ていたりする。


 主に大食いチャレンジがある店のところへと入り浸って飯を食いながら稼ぐ裏技を実践して成り上がる、筈だった。


 最初期は何度か来ても店側が大食いチャレンジを強化して恵右を撃退しようとしていたが、恵右の胃袋は無限に食物を吸い込むブラックホールだったことが今更になって発覚する。


 彼女を知っていた知人や視聴者は結果に察しがついていたが、一般人にはあまり知られていなかったようだ。


 しかも大食いチャレンジをお代わりする始末であり、数日で出禁となり恵右は新たな店を探し始めた。


 究極の大食いキャラが居るという噂が出回り、しばらくは恵右に挑もうと滅茶苦茶な量だったりゲテモノ料理の大食いチャレンジをする店まで現れた。


 そして、そのこと如くが喰い潰された。


「あの村に居た時からちょっと太ったかな。そこら辺の虫とか石を食べて食いつないでたし」


:あの、それはちょっと違うと思う

:うわぁ、急にヤバい話を出すな!

:なんで急に怖い話を……?

:そら太る、いや太ったか?


「ここに就職してから体重が2㎏増えたので十分増えてます」


:えぇ………

:それは太ったとは言わない

:馬鹿力はカロリー消費からか



 異常な環境で育った一面を見せつつも、配信ノルマは達成したためキリが良い所で恵右は配信を切り上げた。


 確かに、迫害されていた頃は両親が居なければ飢えて死んでいただろう。


 少しでも食い扶持を減らすためではあったが、一度外に出たことがあると言っていた両親が恵右を村の外へ逃がしたのは、愛されている所以である。


 最低限の金銭を与え、少なくとも飢える心配が薄い都会へ送り出してきたのは本当に幸運だった。


 ただ、その後の両親の消息は全く分かっていない。


「…………生きてるのかな」


 ぽつりと呟いた弱音は誰にも聞かれることは無く。


『知るか。貴様が捨ててきたものだろう』


 心の底に眠るモンスターだけが返事をする。


 最近は聞き流すことが出来るようになったのでほとんど無視しているような状態であるが、1人の時は思っている以上に寂しいと感じてしまった恵右は話半分に聞いていた。


『追い出されたことを救われたと解釈するか、いや、我の自我が出る前の話は分からんな』


「そこは身をわきまえてるんだ」


『忌憚なき感想と言うやつだ。知らぬことを知らぬと言えぬ愚か者ではない』


 こうして話してみたら意外とかわいい奴だなと思うことが多々あったりしてヤバい事を時たま囁くがイマジナリーペットとして飼っている。


「とにかく配信では全然言ってないけど、地元は本当にうんちを下水と混ぜて煮込んだ後に蒸留させたカスみたいなものだから思い入れも何もないよ」


『どれだけ嫌ってるんだ』


「本当なら話したくもないくらい。でもご飯の為なら同情も売ってやる」


 ここに来たばかりのころと比べたら図太く、そして逞しくなったものだ。


 食べ終わったお菓子の袋を畳んでゴミ箱へ捨てた後にベッドに転がり行儀悪く端末を眺める。


 何か話題になっていないことは無いか、特に食べ物の流行に合わせて食レポ配信をしようかなと思っているくらいであった。


「……………………あ」


『何だ?美味そうなものでもあったか?』


 思わず小さな声が漏れたことでモンスターが反応し、何か何かと恵右の視界を共有して覗き込む。


 なんてことなさそうな小さなニュース、田舎にて意図的に隠されていたダンジョンを国が摘発し始めたという今更ながら違法ダンジョンを消していく方針になったようだ。


 小さくともダンジョン、何か異変があってモンスターが大量にあふれてくる巣窟となったら面倒なことになる。


 家畜は飼えても野生の狼にしかならない種を飼えるはずもない。


「ここ、私が前に住んでた村だ」


 写真に写っていた違法ダンジョンを摘発されている場所が雁木恵右が生まれ育った名を失った村であったのだ。


 かつて恵右を死ぬ寸前まで何度もこき使い、不当に富を奪ってきた連中が摘発されているのを知った恵右は…………


「……………………どうでもいいや」


 特に何も思うことは無かった。


 自分でも思っている以上に冷めた感情で嫌なやつがひどい目にあっているというのに何も思わないとはどういうことか。


 否、今の生活が非常に充実しており、そして忙しくもあるため気にするほどではないのだ。


 もちろん、わざわざ注視して気にしようものなら愚痴は延々とで続けるのだが、それ以外では意識外にあるという訳で。


 なお、この摘発が始まったのはグルメ家な役人がたまたま恵右の配信を見つけ、その際にかつて住んでいた地方の闇を喋り続けたためようやく本腰を入れるようになったのだ。


 地方で搾取されている者は考えているよりもいる。そのことを国がようやく知り、理不尽に奪っていた資源を改めて取り返した後に正しく分配する法律も近々発令されるだろう。


 恵右としてはそんなこと知った事ではないのだが、幸せな時間が続いていたからこそ忘れていた。


 あの性根が腐った村の連中が、自分の過去を赤裸々に語ったことで不幸が襲い掛かってきたと傲慢で無駄で見当違いな復讐心を抱く連中だという事を。


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