第72話 あっても困る
「詫びの品はきっちりと揃えたな?」
「ばび、ずびばぜんべびば」
「ふむ、とりあえずOKか。行ってよし」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
男の前で女が平伏して様々なものを捧げている、という文面を見たら何を思うのだろうか?
実際はケンが借りている端末から勝手に高級商品を買い漁ったダンジョンボスが許しを得るために補填としてのアイテムをかき集めた状況ではある。
どうあがこうと自業自得であるため同情は一切わかない。
そもそもダンジョンボス自体が人類に害を与えるために産まれた存在であるため害獣であることには間違いない。
ただ、人間に擬態した際の姿が巨乳の美女という見た目だけで相当なアドバンテージを得ているため一部界隈からは擁護されるかもしれない。
もちろん、人の金を勝手に使ったダンジョンボスが悪い。
ようやくお許しが出たが、やっぱりケンの事が怖いダンジョンボスは土下座したまま動かない。
構っている時間も、あるにはあるが面倒であるため放置しつつ集められた素材に注目していく。
「おっ、これ珍しい石だ」
「そうでしょうそうでしょう?うちのダンジョンでもちょっとリソースを割かないと出ないもので、これを一部のモンスターに食べさせたら力を得るというか、まあ言ってしまえば経験値素材と言うやつで」
「自分には使わないのか?」
「下っ端はともかく私レベルだと微々たるもの過ぎてリターンが合わなくて。ほら、子供の頃は熊くらいの肉で満足してたのに、今じゃ鬼型モンスターを10匹食べないと一食分として物足りないくらい?」
「中層くらいまでなら十分だが、深層くらいになると無用の長物ということか」
今見ている鉱石は、今まで見つけて保管こそしているが加工するとなると脆すぎて武器や防具にはならず、せいぜい装飾品が関の山という問題児ならぬ問題石であったのだ。
薄暗く光る性質から簡易なランプ止まりとなっていた物に価値が出来たことに関心はしたが、この効果が人間にも適応されるのか疑問がよぎる。
あと、解説の為にすり寄ってくるダンジョンボスがちょっと鬱陶しい。
未知であった物の解説こそ助かるが、そのたびに媚びてくるのは面倒極まりない。
人に寄ればご褒美かもしれないが、元々彼女は怪物であることを忘れてはならない。
「朽ちぬ果実、栄養ある水、鉱石もここで採れるものの下から上まで準備した甲斐がありましたへへへ」
ごまをすりながら笑顔で教えてくれるダンジョンボスは放置し、ひとまず集まった素材で補填は出来るだろうと計算したケンは端末を取り出す。
宛先はもちろん勝手に金を使われた相手、返済しなければならないがダンジョン内で現金は用意できないため現物を渡さなければならない。
しかし、ケンはとある事情を持ってダンジョン深層から出るつもりは無い。
となれば相手から取りに来てもらうしかない。
端末を操作し、短いながらも簡単に言葉を坂神あかねへ送る。
『準備が出来た、取りに来い』、と。
「なに、これ?」
「わ、私に言われても…………」
「ナニ、コレ?」
「カタカナで言われても…………」
「ナニコレ?」
「半角で言われても…………」
坂神あかねはマネージャーに正座させられていた。
事の発端、ダンジョン深層にて端末を貸出どころか通信料まで支払っているのだが、課金や通販は流石に話が別であった。
命の恩人であり、様々な情報を落としてくれることには感謝しきれないし、あかねが彼に金を払う側に回ってもおかしくはない。
それでも一回の買い物で、正確にはバラバラなタイミングで買われていたが、百万単位の金が動くのは流石に一言でも相談が欲しかった。
結局、犯人は別にいたらしく商品も既に納品されてしまっていた為に金銭のやり取りが発生してしまい気づいたときには口座から金がなくなっていたのだ。
その詫びとしてダンジョン在住の男性から詫びの品がまとまったと連絡があり、各所から許可を得て取りに行ったのだが…………
「明らかに高いやつって昔紹介されたっきり市場に出回らないやつ、未発見の植物、少なくとも明らかに魔力の純度が高い水、一個一個の値段が億単位で違うやつだよね?」
そう、問い詰められている理由は使われた金額に対して国が動くレベルでの対価を持ち帰ってしまった事である。
今のあかねの実力は中層を攻略できる程度で深層には挑んだところですぐに死ぬくらいであるため、深層の入り口までという条件で人を集めて持ち帰ったのがこれであった。
あかねも何かの功績がひとつくらいかなと軽く考えていたが、まさかここまで大量に渡されるとは思っていなかったのだ。
「バックパッカーの人達も死ぬほどビビってたわよ。自分達が襲われたら相当な損害が出るんじゃないかって」
「それは…………はい」
「もうさぁ、これうちの事務所だけじゃほかんできないわよ…………」
詫びの品の中身がバレたらどんなリスクを犯してでも合同しに来る輩が現れる。
失敗したら終わりではあるが、成功したら半世紀は遊べる金が手に入る。
渡された、というよりも久々に登場する落とし物ボックスに入っていたアイテムの一つ一つがそれくらいの価値がある。
「社長も今、めっちゃ会議してるよ。仕方ないとはいえ、事務所で保管できるわけじゃないし、配信しながら取りに行かなくて良かったわ…………」
「本当に英断でした…………」
普通なら動画として美味しいネタではあったが、あかねは今回の事を配信するつもりはなかったのが功を奏した。
メディアに出るのが好きそうじゃないケンが、外の世界と変に関わらせたら自分を中心に余計に話が拗れると思ったからである。
「バックパッカーの方達にも口止めはしてるのよね?」
「それはもちろん!ちょっとヤバいと思ったので」
「でも噂はどうせ立つわよ。コソコソと動き回ってたのは知ってるし、これらをオークションで売るしかないし…………」
ダンジョン深層のアイテムは急に売ることは不可能である。
何故ならそんじょそこらの買取屋だけでなく探索者協会が運営している換金所でも膨大すぎる大金が動くからである。
下手に買い取るだけで店が潰れるし、買い取れたとしても盗まれたら終わりでもある。
それに税金だって存在しているのだ。簡単に金に変換出来るわけがない。
よって、このような特別すぎるアイテムは一応公平にオークションで競ることになっている。
「ほんっとうにもう、問題を持ってくるけどそれ以上の金を持ってくるのが得意よね」
「そんなつもりはないですぅ!迷惑かけたくてかけてるわけじゃないですぅ!」
トラブルメーカーはどちらかといえば後輩の方だろうと思うあかねではあったが、今のところ自分のせいで発生した問題の殆どはその際に得た金で解決しているのが現状である。
「このまま置いてても危ないし、あっても困るから信用できるところに声をかけてみるわ」
「本当に何から何まですみません…………」
金銭トラブルは怖い、減るのも恐ろしいし何百倍にして返されるのも恐ろしい。
かつての恩返しが洒落にならないほどの事態を作り出すなんて、あかねは正座を続けたままどうしてこうなったと半泣きになった。




