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第70話 請求

「ふふーん、大儲け大儲け…………」


 坂神あかねは現在、地上で休暇を過ごしていた。


 先日の蝗害により多くの国が被害を受け、現在復興途中のため探索者業務は中止していた。


 所属企業も今のまま街を放置していたら物流もままならないと考えたため、従業員を一時的に探索者ではなく業者の一人として扱っているのだ。


 ほぼ慈善事業に近いが、それでも給料は出ているしダンジョンで鍛えた身体が肉体労働に適しており、むしろ探索者への尊敬が向けられたことで人気がほんのり上がっていたりする。


 その中でも坂神あかねは騒動のどさくさに紛れて持ち帰った『氷結砕石』が高値で売れたことを先ほど知らされたのだ。


「ふっふっふ、これで久しぶりの機材新調…………あ、機械も齧られてるんだっけ。店頭販売のやるもしばらくは無理かなぁ」


 給料の振り込み通知を受けたあかねは、無事であった銀行へ足を運び、込み合う中で通帳記入だけして戻ってきたのだ。


 金額はまだ見ていないが、相当な金額が入っていることは予想できた。


「さーて、今日のお給料は…………」


 自室で購入したゲーミングチェアーに深く座り、御開帳と言わんばかりに通帳を開き凝視する。


「……………………ん?」


 確かに増えてはいる。金額は7桁の収入が今月入ったのだが、それよりも目を引くものがあった。


「…………んんん?」


 マイナス面が妙に多い。


 確かに買い物で決済の為使われることはあるが、それでも大した金額を使うことは無い。


 それにしても引かれている数が多い。


「あれ?あれれ?通販?知らないサイトから引き落とされてる?」


 明らかに不審な引き落としがある事に疑問を感じたあかねは、不正利用されたのかと思い…………


「…………まさか」


 可能性は否定できないが、()がそのような愚行を犯すはずがない。


 そもそも決済方法をずっと紐づけされていた端末を渡しっぱなしだったのが悪いのだが、そもそも深層まで配達するような注文をするだろうか。


「一応、確認は必要だよね」


 そういえば最近話す機会がなかったなと思いながら、端末から一つの連絡先を開いてみる。


 何回か話してたけど気さくな人ではあると認識している彼女は何も考えずに通話ボタンを押した。

























「不正利用?おい、そこの馬鹿共」


 電話を受けた本人ことケンはペット2匹に呼びかける。


「お前ら勝手に通販使ってないだろうな」


 ペット2匹は逃げ出した。


 人の身体をフル活用するような素晴らしいフォームで安全地帯から離れていく。


「すまん、心当たりがある」


『あるの!?』


「最近、文明の利器に溺れた奴が居候として住み着いてな」


『弟子とかそういったやーつ?』


「居候みたいなもんだ」


「どんなもの好き…………」


 まさかモンスターだとは言えない。


 なんならキメラに至っては転移トラップで深層に迷い込んだ際、一番最初に襲ってきたモンスターである。


 それを口に出すのは野暮だろう、それくらい空気を読むことはできた。


「とりあえず立て替えだけしてくれないか。責任は取らせる」


『取らせるって…………まあ深層(ソコ)で居候出来るってくらいだから強いんだろうなぁ〜』


 深層のモンスター&ダンジョンボスだから強いどころではない。


 単体でも地上に出れば壊滅まで追い込めるような恐るべきモンスターなのだ。


 ただ、あかねの電話相手の方がそれよりも強いだけで弱い訳ではない。


「適当に素材取らせて例のボックスに突っ込んでおく。用意できたら一報入れるから取りに来れるか?」


『無理してでも予定を空けるよ!むしろ、配達の方がどうするか気になるけど…………』


「今履歴を確認する」


 暇な時に端末を壊さないようにと厳命しながら触らせたのがいけなかったか。


 いつのまにか言語も習得したダンジョンボスがどこからか通販の存在を嗅ぎつけ、データリセットを動作しないと思い怠った事が災いしてやらかしたのだ。


 そこのところは最近までずっと1人だったため久しぶりに反省しないといけないと考えた彼は、あることに気付いた。


「ちなみにだが、いくら使った?」


『えーっと…………XXX万…………』


「分かった、内臓抉ってでも捻出させる」


『内臓はいらないよ!?』


 残念なことに、モンスターなので普通に金になる。


 ただ、キメラだけは肉体から切り離され、キメラにとって要らない部分となったら即座に劣化するため金にならない。


 ドラゴンクイーンのダンジョンボスは角が売れそうだ、そんな事を思いながら履歴を確認した。


「菓子に飯に、おもちゃに美容品…………宝石??これ配達する方も異常を疑うだろ」


『何でかなぁ、お金になるならいいのかなぁ?それに場合によっては訴訟起こしてむしり取るって考えかも』


「ダンジョンは自己責任って話じゃなかったか?」


『都合良く穴を突くのが弁護士の仕事だってうちの会社の顧問弁護士が言ってた』


「あと、その流れだと訴訟されるのはお前じゃないのか?」


『なんで!?あ、私が契約してまだ使ってる扱いになってるから!?』


 思わぬところからとばっちりを受けそうになっているあかねを他所に、ケンはあることを考えていた。


 おもちゃ、お菓子、飯、これらはまだ分かる。


 だが理解できないのは宝石であった。


 ダンジョンの鉱石は普通の宝石よりも価値が高い事がある。


 宝石も深層から取れるのだが、地上で採れたものよりも遥かに価値がある。


 それを欲しがる意味が分からなかった。


 他の産地のものが欲しかったのならそれでおしまいだが、それだけで無いと勘が囁いている。


「…………ん?これは」


『どうかしたの?』


 宝石の所在を見ると、ここ日乃本ではなく海外産の宝石を購入していた。


 つまり、ここのダンジョンでは手に入らない特別な宝石という事である。


 何故ダンジョン産の物を買おうとしたのか?何か理由があるのか?


 そこまで考えたが元凶から直接問いただす他はない。


 今更キャンセルしようにも既に日乃本に届いて現地に送るだけのみになっており、購入時に身元確認もしないのかと杜撰すぎる販売方法に後で長文クレーム…………もとい忠告メールをつけようと決意した。


「しばらく教育番組以外見せるわけには行かなくなったな」


『え、何?子供なの?』


「精神だけがな」


 見た目だけはケンよりも身長が高くグラマラス(1匹男性器付き)な体型をしているのだが、中身は完全な世間知らずのワイルズである。


「ひとまず、馬鹿共を問い詰めてくるから切るぞ」


『あ、うん。何というか、ご愁傷様?』


「誰に向けてだ、それは」


『分かんない、全員?』


 被害に遭うのは誰なのか、あかねは後ですごく物理的に問い詰められるであろう居候(仮)の冥福を祈るのであった。

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