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第69話 しめる


「うっま!私が食べてた食糧は何だ?腐ってたのか?」


「がつがつ、むしゃむしゃ」


「生のマグロのくせに臭くないし、本当に保存してたとか疑わしいほど瑞々しい!そして何この黒いの、これのせいで味がさらに変わる!」


「醤油だな。豆をあーしてこーして加工して出来るやつだ」


「この液体作るのにそんなに手間を…………?人間、何考えてるの…………?」


「昔の人は食うことが娯楽だったからな」


 食べるということは生であることが基本であったダンジョンボスにとって、味を気にして研究を重ね作られた調味料ですら奇跡の存在であった。


 ボス部屋、というよりも管理室に近い場所に引きこもっていた際に食していたのはポテトチップス。薄く切ったじゃがいもを油で揚げて塩をまぶした簡単なものであるが、今日に至るまでずっとそれだけを食べていた。


 たかが塩、たかが油、たかが芋。しかし組み合わせて食べるのは全く知らず、本来肉食であるドラゴンですら虜にしたのだ。


 ポテトチップスのみの食生活では太ったりして不健康にならないのかというと、流石にモンスターと人間を比べるのは筋違いと言わざるを得ない。


 元々、巨大であり必要カロリーは人間よりもはるかに上回るドラゴンにとって、手軽にカロリー補給できて飽きない味をする食べ物は非常に体に合っていたのだ。


 逆に言えば、他の食糧に手をつけることがほとんどなくなっていた。事実、生肉の味も200年も食べられていなければほぼ忘れるというもの。


 そして久しぶりに魚の生肉プラスアルファを食べた結果がこれである。


「これ一つにそこそこ歴史があるはず。つまり、まだ似たようなものが地上にあるという訳?」


「百や千では済まないぞ」


「…………人を喰えば強くなる訳ではあるけど、これに比べたらカスよね」


「人肉、ゴミ!美味いけど、まずい!」


「そうなると『強欲』の力の意味、うごこ…………」


 ケンが調理して出された海鮮丼(ダンジョン産魚類使用)を素手で食べながら頭を抱えるダンジョンボス。キメラも未だに箸やスプーンを使わず素手でしか食べないので感覚は一緒なのだろう。


 『強欲』の力は確かに強い。しかし、人の味よりも料理の味を覚えてしまった今では逆に抵抗感が出てしまう。


 そうなれば強くなれないし、下手したら弱っていく可能性だってある。と考えているが、案外そうでもない。


 人間の力を得るには人間を喰うが、その技術力は喰っただけで理解できるものではない。特に、機械のような外部取り付けのものや魔力を用いたアイテムなど、命を一つ喰えばそれまでだが持続的に、場合によっては進化するかもしれない可能性を持つ道具だって産まれるかもしれない。


 それを吸収出来たら損失を回収どころか黒字になる可能性だってある。気長な話ではあるが、料理という複雑怪奇な味を出すのが当然のという人間だというのを知ってしまえば、後戻りはできない。


 その第二の被害者となるのがダンジョンボスである。


「一応だが、まだおかわりはあるが」


「「いる!」」


「だろうな。あと10人前だから半分にして分けろよ」


「下っ端、私が9、お前が1だ」


「ぜんぶ!」


「慈悲を見せたのが悪かったわね、全部私が貰うわ」


「ぐるるる…………」


「喧嘩するな外弁慶」


「いやあ、喧嘩だななんて。私は部下を調教しているだけでして」


 下には厳しく、上には媚びるダンジョンボス。情けないと言えばそうだが、擁護として媚びてる相手が恐ろしくヤバい奴という事を忘れてはならない。


「へへへ、私が言うのも何ですが、ちょっとこいつに甘くありませんか?」


 米と醤油でベッタベタな手でごまをすりながらつけあがるキメラを攻めるように言う。


 事実、安全地帯の備品をかなりの数壊したり食料を喰い散らかしたりと様々な悪さを働いている。


 それでも放置されているのは、偏にペット扱いされているだけだから。


 壊したら治せばいい、無くなれば作ればいい精神で気長に待てるケンがおかしいだけで、本来なら殺処分が妥当な害獣である。


 それを再生能力と顔の良さと行動の面白さによって生かされていることにキメラは気づいてるのだろうか?


「がう!おかわり!」


 顔を醤油と米まみれにしている獣は全く理解していなかった。


「とりあえず食っとけ」


「がつがつ、むしゃむしゃ」


「…………私も、もう一杯」


「ほれ、もう一丁」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


 ディストピア世界の配膳かと思うくらいの感謝のされようだった。あまりにも過剰な対応にどう返事をしたらいいのか困る彼であったが、こういう時は無視が一番いいと聞く。


 事実、地上に居た頃もウザ絡みしてくる奴は居た。それがあまり縁を切れない友人である故にあえて無視の方向性をとることもあった。


 それを逆手にべらべらと喋ったり体を触ってきたり、よくしばかれなかったと思う人物である。


 懐かしさを急に思い出し、そして既に200年経っていることに哀愁を感じた。


 僅かな雰囲気であったため目の前で飯を貪る2匹は気づけなかったが、それもほんの一瞬であったため気づけというのが無理な話である。


 それよりも、今後食料消費が最初の二倍から三倍ほど増えることが確定したため乱獲の時期がやってくる。


 普通なら何時間、何日もかけて食料を集める行動である。その間、キメラは適当にぶらつかせて暇を持て余してしまうが、殆ど修行をしているようにモンスターを狩っているためケンからするとありがたかったりする。


 しかし、偶に転移トラップの出口で待ち構えて人間が飛んでくるのをじっと待っていたりもする。


 そうして悲鳴を上げる前に、ケンが気づく間もなく飛ばされてきた人間は…………


「よし、俺は食糧調達に行くからお前らは大人しくしてろよ」


「あ、私が設定弄れば好きなモンスター出せますよ」


「急に便利キャラになるな」


「えへ、いやぁ、貴方様のためならえんやこらでございます」


「どこでそんな単語覚えるんだよ。あ、分かった。最初の時に集めた物の中に本があったな?」


「実は、あの部屋はまだ続きがありまして」


「よし、ちょっと来い。全部喋るんだ。そして全部出せ、見せろ」


「あっ、角は!角は掴まないで!話す!全部話すから!黙っててごめんなさいいいいいいいい!」


 交渉カードとして隠していたのが仇となり、体格差があるにも関わらず角を掴まれ連行されるダンジョンボス。


 まだ見つかったばかりとは言えど話すべき事を話していないので残念ながら当然の扱いである。


「バカだ…………」


 そんなびーびー泣きながら尻尾をばたつかせても抵抗できない大の大人のようなダンジョンボスの情けない姿を見てキメラはこの一言をつぶやいた。


「…………ワイン、のむ」


 そして1匹だけになったため食糧を食い荒らそうと動き出す。


 のそのそと、こっそりと、音を立てないようにそろりそろり動くキメラ。


 ケン達が戻ってきた後にどのような制裁が待ってようと、欲しいものは我慢しない強欲なキメラであった。


 なお、描写はなかったがキメラもダンジョンボスも人間態で全裸のままであった故に、どこまでもだらしなく飼われてる美女(?)が2人に増えた事を記しておく。


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