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第68話 メスとオスメス


「ふう、下っ端にしては相当根性あるわね。私に楯突いた下っ端は排除してきたけれど、本当に死ななかったのはお前が初めてだ」


「ふん!俺、つよい!」


 ダンジョンボスとキメラの戦い。本来ならば数回攻撃が交わされたのちにダンジョンボスの本気によりキメラが倒される筈だった。


 ここにいるのは並のキメラではない。喰うもの全て吸収し、ナノマシンという旧世代において最新の技術を取り入れた機械を吸収し、無限に等しい再生能力を得ている。


 故に、お互い人間態という縛りを設けていながらほぼ対等に渡り合えていたのだ。


「チッ、パワーだけなら私のほうが上だけど耐久に関しては下っ端が上とは示しがつかないわ。その力、どこで手に入れたの?」


「教えない!」


「教えろって言ってんだよ下っ端ぁ!」


「がるるるるる!」


 先ほど殴り合ったり火炎を吐き合い引っ掻きあったりと暴力の応酬を繰り広げて一度お開きにしたにもかかわらず、互いに素っ裸のまま取っ組み合いが始まる。


 二体とも力が異常に強いため、ただ掴み合うだけでも異様な音が鳴り響く。


 もはやどこを掴んでいるのかと言いたいが、ぶちぶちと嫌な音を出しながら引きちぎられるキメラの身体を見たら聞く気も失せてしまうだろう。


「…………はあ、こんなことに体力を使うのはもったいない。後でご飯があるとはいえ、運動はここまでだ」


「ふんっ!」


「だけどさぁ、やっぱり教えてよ?その再生力があったら私もあの男に勝てるかもしれないのに」


「無理、その程度で傷つかない」


「う、確かにあいつの防御力も頭おかしいほどだから、それを突破する方法がない限りいくら復活しても無意味ってコトね」


「そう!バカなのに、はやい!」


「やっぱり喰ってしまおうかしらこいつ」


「俺が喰ってやる!」


 食べたら力を得るという考えは共通なのか、ともかく二匹とも今はケンに屈服しているように見せかけて、力を付けたら寝首を搔くと意気込んでいた。


 もちろん、ケンもそのことを気づいていながら泳がせているだけに過ぎない。


「しっかし、あんた性別どっちなの?雄?雌?」


「どっちも!」


「欲張りな…………一応キメラではあるからいいとこどりってところ」


「どやあ!」


「前尻尾を勃てるな。私、ドラゴンクイーンぞ?」


 立場的にも本来なら偉いダンジョンボスだが、部下があまりにも不敬すぎてもはや怒る気も失せてしまっていた。


 キメラはいいとこどりをするような生物である。雌雄の良い所としてとても引き締まった筋肉と立派な逸物、豊満な胸に誰もが羨む美貌まで兼ね備えている。


 中身は残念であれど、スペックは間違いなく一流。『強欲』に覚醒していることが本当だと先ほどの殴り合いで確信したため、いずれダンジョンボスである自分に並ぶ強さを得るだろうと彼女は予測した。


 そもそも、キメラは獅子、山羊、蛇の三種の生物から成っていたモンスターなのに、一つの頭に収まっているのは何故なのか?あの巨体をどうやって人間態に押し込めているのか?


 ダンジョンボスである彼女の本来の姿はドラゴンである。それも、キメラよりもはるかに大きい『大地の龍』である。


 普通なら巨体すぎてボス部屋の外に出る事はできない。だが、今回ばかりは事情が違う。


 侵略という事は指揮官及びダンジョンのりそーすを扱える者が居なくなれば崩壊する。それは小規模ダンジョンでも同じであり、小出しとは言えほぼ無限にリソースを引き出せるのに倒されて使えないは本末転倒である。


 なので大規模ダンジョンを任された彼女は初手で大量のリソースを注ぎ込み深層モンスターを溢れさせ、地上に侵攻させた。


 結果、なんか目の前のキメラ以外全員死んだ。


 なす術なく消されていった配下をただ眺めることしかできなかった彼女は大いに恐れた。


 人数を集めて何とか討伐しているのであれば、トラップで分断したり弱点を分析して特定のモンスターを送り込んだりとやりようはあった。


 何で単騎で20年間無双して装備以外無傷なのか。


 自身の理解を超えた怪物を見せつけられたことにより、彼女は『自身の命』を欲した。


 大規模ダンジョンのダンジョンボスは強い。地上のほとんどの生命体が敵わないほど、圧倒的な暴力と特殊能力を有する。


 極々一部がいなければ、日乃本は彼女の手により堕とされていただろう。


「無理無理無理、私と下っ端が組んだ所で何千年かかるの、あいつを倒せるのは」


「がう…………」


「前尻尾を連動させるな」


 ダンジョンボスの言葉にキメラも一理あるとしゅんとなる。


 互いにできることが多すぎて器用貧乏な所がある似たもの同士、良くも悪くも同じ系統として生まれたのは本能で理解できた。


 それはそれとして気に食わないのは何故だろうか。


「あーあ、ポテチ以外で人間の食糧を食べた事ないからなー。どんなのがあるのやら」


「美味しいもの、たくさん!」


「…………ああ、そう言えばあいつに飼われてたのよね。生活水準は高そうだから、変わり映えしない毎日よりマシよね」


「ぐるるる…………」


「何で怒ってるのよ」


 キメラとしては飼われている発言が気に食わなかったが、側からまたはそうなのでダンジョンボスは困惑するしかない。


 やはり、あの角を折っておくべきだったか。そうキメラの頭部に存在する3つの脳の意見が一致した。


 と、再びバチバチと目線からビームが出てもおかしくない睨み合いが発生するが、2匹の優れた聴覚に金属音が響いてくる。


「むむ、ごはん!」


 その音は、少し前に『教祖』と名乗る白装束が外に出たキメラを呼ぶために利用した方法、フライパンにお玉をぶつけ激しく鳴らす行為である。


 おそらくケンとは別ベクトルで人外と認識しているものの、無償で地上のことを教えてくれた都合のいい人物はしっかりと覚えている。


 しっかり『教祖』の事をモンスター認定しているキメラは元の獅子頭、山羊頭、蛇頭の巨体へとメリメリ肉体を変形させながら四足歩行で駆けていく。


 しっかり上司のダンジョンボスを残して。


「こらあああああっ!私を残して行くんじゃなあああああい!ああもう通路狭すぎ!もっと広くするべきだった!」


 高さだけでも3mあるキメラ本来の姿すら簡単に通れるほど広い深層の通路を狭いと言い張るダンジョンボス。それは本来の姿が比べ物にならないほど大きい訳で。


 仕方なしに人間態のまま尻尾を引きずり走るしかないダンジョンボス。それでも走る速度は音を軽く超えており、空気を突き破る音を残して消え去っていく。


 その衝撃で、たまたま近くにいたモンスターを肉片に変えていく。


 小さくなっていようと、ダンジョンボスは脅威である。その事だけは忘れないように。


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