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第67話 強欲ついんず


「あーっ!バカ!」


「誰がバカだ下っ端ぁ!」


「お前も実質下っ端だろ」


「そうでしたえへへへへ」


「バカだ…………」


 一瞬だけキメラに喧嘩腰になるもケンに言われて速攻で媚びるダンジョンボスにキメラは呆れた目で見ることしかできなかった。


 そもそも頭を掴まれたまま中腰になりつつ歩いていたのだから威厳も何もない。慕っていた訳ではないが思っているよりも情けない姿を見せているのがバカのようにしか見えなかったのだ。


 なお、身長だけでいうなら今のダンジョンボスは人間態のキメラと同じくらいの身長、つまり2mは軽く越している。


 この場で一番身長が低いのが、人間としてはそこそこ高めな180cm台のケンとなっている。なお強さは身長に全く関係ない模様。


「お前が遊んでいた間に俺はコレを捕まえたという訳だ」


「そうです、奴隷になりまして、何でもするので殺すのは勘弁してください」


「してないからな」


「がう…………」


 確かにキメラから見ても、この男は強い。何十回、何百回も殺されているので文句がつけようがないほど強い。


 だが、そこまで媚びるほどなのかと疑問に思えた。


「で、普通にボス部屋から出られるんだな」


「そこそこ大きいダンジョンなので私がいなくともある程度回るように設定してますので、あっ!だ、だからって殺さないでくださいね!?」


 自身の失言に太ましく凶器になる尻尾をピンと張って懇願する。


 パーカーのような布を守ってはいるが、乳帯のような固定するものはないためガタガタ震えるとキメラに負けないほど豊満な胸が激しく揺れる。


 キメラと種族的に違うところと言えば、体表に生えているエメラルドの鱗、角、そして尻尾くらいである。いや、あえて付け加えるなら股間に膨らみがあるかないかである。


「こここ、ここが貴方様の住まいですかぁ〜。何だか凛々しくも美しく、そして快適と言える場所ですね!」


「それはそう、快適!」


 ひたすら媚び売りに徹するダンジョンボスだが、ケンが拠点としキメラが勝手に巣と認定している安全地帯の事については賛同した。


 勝手に(ケンが色々作業して)置いてる美味しい肉やチーズ等加工食品、熟成したワインなどの酒、そして柔らかい寝床。


 キメラの体重は人間態になろうと8トンという生物においてあるまじき重さであるため布団は既にぺちゃんこになっているが、それでも柔らかいと感じるあたり床よりマシ程度なのだろう。


 それらの修復をするのは全てケンであり、キメラはぐうたらしてるだけである。


 彼としてはこの部屋は旧世代の部屋をそのまま再現したものであり、一部を除けば当時の普通を体感できる。


 かつて地上もこれと同じであった。だが、ダンジョンからの侵略によって壊滅的被害を負い文明は一度退化したが、200年もあれば元の姿に、そしてさらにダンジョンから採れた素材を使用して進化している。


 それでも科学力に関しては彼の方が圧倒的に上回っているが。


「これが強い体の秘訣ですか?食うもの困らず、美食にこだわる!確かに美味しいものを食べたらやる気も満ち溢れてくるものですね」


「そういや、お前の部屋は油の匂いがしていたな」


「地上の食べ物も複製できるようにダンジョンをちょっと弄って…………」


 おだてるのに集中しすぎて再びぽろっと言葉を漏らしたダンジョンボスは、その先の言葉を紡ごうとしたが言葉を止めた。


 その理由は斜め前に立っているキメラが目を吊り上げてぐるると喉を怒りのままに鳴らしているからである。


「ちょ、ちょっと下っ端?何をそんなに怒ってるの?」


「お前、ずっと美味しいもの食べてた!俺、生肉だけだった!」


「当然の権利ですが?だって、私、ダンジョンボスなのよ?」


「ぐるるるるる…………こいつ、喰えば俺がダンジョンボスに?」


「試したい気持ちはわかるが、引継ぎに失敗したら痛い目を見るのはお前だからな」


「あれ、しれっと試そうとしていました?あ、あああ、あの、殺さないで?ね?なんでもするから、ダンジョンのアイテムとか貢いじゃうから、ね?ね?」


 キメラにダンジョンボスを捕食させたら管理権限を引き継げるのではないかと頭の中で計画を立てていたが、ケンの体に縋り、体格差から上から見下ろす形とはいえ涙目で命乞いをする。


 また漏らすのではないかと思ったりするが、元々こいつの失言でキメラを怒らせているのでいつ起きるかわからない事象まで成り下がっているため慰めの言葉をかける必要はなかった。


「うわぁ、いいなぁ。あ、もしかしてコレは地上の道具ですか?最初の侵攻の時に集めたガラクタに似たようなものがありました。軽いし画面のような…………もしかしてテレビの上位互換!?」


「端末のことか。昔はダンジョンのものを使ってなかったが、今はダンジョン内でも使えるようになってるみたいだぞ」


「これは、確かに欲しくなる。あれ、でも最初の命令は殲滅だったから残るものも残らなかったかもしれない…………ファインプレーですね!」


「そもそも侵略がなかったらまだ何とかなったかもしれないがな」


「デスヨネー」


「本来だったら俺が出る幕ではなかったはずなんだが、ここの世界にも他の世界と交渉する組織もいるのに無視して突っ込んできたんだ、飼い殺しにされても文句はないだろ」


「そうですよね、へへへ、所でダンジョンの素材でなにがいります?出来る限り、いや、ダンジョンが潰れない程度でしたらお出ししますよ」


「まぐろの肉!」


「魚はコスト高いし、お前に聞いてないんだよ下っ端」


「ぐるるる…………」


「じゃあたまに出てくる空飛ぶカジキマグロは何だよ」


「あ、普通にレアモンスターです。そもそも音の何倍もの速さで突進するんですけど、簡単に倒せるのは流石ですね!」


「一応、冷蔵庫に保管してるのはある」


「たべる!」


「待て、すぐ食べようとするんじゃない」


「えーと、その、私も現地民が作る料理を食べてみたいなー…………なんて」


「思ってるよりも余裕だな?」


 媚びてはいるが、興味ある事にはカメラ同様グイグイと進んでいくダンジョンボスに呆れを通り越して感心する。


「命第一ですけど、これでも私は『強欲』ですから!」


「がうぅ?」


「ひ、引きこもってたのは貴方様が強すぎて自分の命は失いたくなかったからで、地上の食糧の一部を量産できてたから後でやろうって思ってただけで!」


「言い訳は別に聞くつもりないが」


「ぴぃ…………」


 モンスターが強くなれば、この世界でいう『七つの大罪』に当たる特殊能力を持ち、生きてる限り際限なく強くなる…………筈だった。


「強欲っていうとこいつもだろ」


「どやぁ!」


「ああ、え?ただの下っ端なのに『強欲』に目覚めるぅ?ないない、下っ端なんてそれこそ死んでも無限に再生して色んなものを200年分吸収しない限り覚醒する事は…………あれ?」


「条件全部満たしてたな」


「俺、強欲!」


「そ、そう言えば貴方様に死んでも挑んで他のモンスターを捕食していた…………」


「お前、立場、俺のもの!」


「誰が『強欲』を譲りますか!ええい、ここで殺しておく!」


「がるる、やってやる!」


「やるなら外でやれ。俺は飯作っておくから」


「「はーい」」


 仲良し姉妹、いや姉弟なのか。既に餌付けされたキメラとこれから餌付けされるダンジョンボスは仲良く安全地帯の外へ出る。


「…………仮にも上位生物なのに飯で釣られて出ていくやつがあるか?」


 上位生物よりも上位生物な男の呟きに誰も答える事はなかった。


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