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第64話 ダンジョンボスへの道?


「ったく、いつまでデスワームに夢中なんだか」


 ケンはいつも通りダンジョンを練り歩いていた。自分がキメラに風穴を開けて再生待ちにさせた事を棚に上げて。


 200年間も飽きずにダンジョンを歩き回ったり走り回ったり砕いたりしているが、今まで大きく変わった様子はない。


 200周年式典にて一度だけ多数対多数戦のために大幅に広くなったことはあったが、それも今ではすっかり元通りになっている。


 まるで挑もうとしていた人間などいないかのように、いつも通りモンスターが跋扈するダンジョンなら戻ったのだ。


 根本的な解決には至らず、さらに現人類がダンジョンの資材に依存していることも含めてケンが居るダンジョンを潰すのは不可能になっている。


 ケイ自身もいろんな素材が取れるため潰すには惜しいと思っており、どうやったら飼い殺しや自動化できないかというダンジョンからしたら溜まったものではない事を常に考えている。


 変わり映えがない生活も、キメラが毎回のように現れてはしばいたりしていたが、特にここ最近は急に変わったと思っている。


 やはり坂神あかねが来た事が大きいのかもしれない。


 稀に深層へ転移トラップという不意打ちのように飛ばされる移動手段以外では普通の人間がまともに中核近くまで来れるはずもなく、正規ルートの入り口から入れば、ベテランであろうと大抵入り口で死んでしまう。


 故に、隠密で攻めてきた者を見た時は本気で感心した。


 命知らずが深層へ来る事が多いが、生きて帰るという点では間違いなく最適。伊達に深層へ消えていった先人たちを勉強しているのだと思ったものだ。


 だが、これらもケンが理外に通ずる肉体を持っているからであり、全て上から目線でしかならないので口には出さない。


 と、久しぶりの変化を楽しむ彼は今日も元気よくダンジョン深層を探索する。


「キュルイアアアアアアッ、アッ?」


「お、今日はたこ焼きにでもするか」


 明らかに水生生物だろうタコのようなモンスターが通路脇から飛び出してきたが、すぐに思い知らされる。


 使い込んでいる剣もダンジョン深層から採れた鉱石で出来ているため滅多な事では壊れない。23本もあった触手を瞬きする間に全て切り落とし、頭部を支えていた触手が無くなった事で頭部がどすんと地面に落ちる。


「いや、中身をくり抜いて米を詰めるのも悪くない。そうなると味付けは塩か?ソースか?」


 抵抗できなくなったように頭だけで転がるタコ型モンスターはごろりと転がる。


 一見、無抵抗になったかのように見えるが深層のモンスターはこの程度で諦めるわけが無い。というよりも諦める理由にもならない特殊能力を持っていることが多い。


 失った触手が瞬く間に再生する。それはさらに太く、そして吸盤も歯のように棘もついて更に凶悪と化す。


 その再生速度はケンが一般人と同じようにゆったりと3歩歩いた程度の時間で23本の足が全て揃う。


 無防備と思わせ、のこのこと近づいてきた獲物を仕留めるには十分すぎる罠であった。


「まあ、予想通りだな」


 残念なことに、そういった無限再生と縁がある男であったため油断など一つもなかった。


 それどころか更に細かく切り刻まれて粉のようになってしまっている。


 再び地面に頭部だけ転がったタコ型モンスターは茫然自失と言った風にピクリともしない。


 事実、死んだふりをしてからの急襲は常に成功していたのだ。たまに失敗することはあっても全部の触手がダメになる事はなく、残った数本の足で逃走することもできたため生きていれば勝ちを体現し続けていた。


 だが、今回は訳が違う。


 ダンジョン深層に生まれて数年、勝利はあれど実質的な敗北は無かった。


「おっと、まだ足掻くか」


 今回は訳が違う。相手は自分よりも何周りも小さいが捕食者である事は即座に理解出きた。明らかに強く、自分が束になっても勝てないという事も即座に理解できた。


 再び触手を生やして攻撃、ではなく逃走のために利用する。


 蛇のように地面へとしならせ、這いずるように逃走する。


 その速度は瞬く間に音を超え、土煙を津波のように巻き起こす。これぞタコ型モンスターの得意戦法である土墨隠れの術。


 なお、その土煙は突如飛んできたハンマーにより真っ二つに分かれて即座に晴れた挙句、そのハンマーはタコ型モンスターの急所に的確に飛んできたのだ。


 巨体の割には小さな脳を的確にぶち抜かれたタコ型モンスターは走る勢いそのままで力尽き、ずざざざざと大きな音を立てながら滑っていく。


 ギリギリ音速を超えずに滑っていく様は、まるで大根をすりおろすかのように地面に紅い跡を残して血なまぐさいにおいをまき散らす。


 そして遂に壁にぶつかり停止した。その際にも物凄い重厚な音が鳴り響き、柔らかそうな頭部は思っている以上に硬い事を予測させた。


「ありゃ、頭を食べるには一苦労だったか?」


 もしかしてこいつ、赤い癖にイカだったりする?と余計な事を考えながら残骸を拾い上げようと近づいて。


 気づいた。


 先ほどのタコ型モンスターがぶつかった壁、普通ならばこれくらいならびくともしないダンジョンの壁が砕けている。砕けたとしてもすぐに再生が始まる筈なのにまだ再生の予兆も見せていない。


 ここはダンジョン深層で言うと中心に近い。ケンが外周の壁を掘り拠点としているのとは仕様が違い、中になればなるほど強いモンスターや強固な壁、偏屈なトラップが置いてある。


 しかし、今ここにある壁はそんなものとは訳が違う。


「…………何だこれは」


 初めて見る現象に興味を示すケンはタコ型モンスターの死骸を放置して壁に触れる。


「これは、外装か。俺の拠点を隠すための扉のように、いや、違う。偽装用だ、なぜ今まで気づかなかった?」


 トントンと砕けた部分を拳で叩き、まだ崩れないか入念に調べる。


 この時、ただこづいていたのではない。拳と壁がぶつかった振動で壁の先に何かあるのかエコーロケーションのように調べていたのだ。


 普通の人間なら不可能な所業。そんな常人と比べて飛び抜けた五感を持つケンだからこそ容易く出来る技術であった。


「…………そうか、そらっ!」


 砕けた壁を、さらに砕く。そのために道具は必要なく、ただの正拳突きを叩き込むのみ。


 キメラを一撃で仕留める(死んでない)威力を叩き込まれてはダンジョンの崩れかけた壁は容易く崩壊した。


 ダンジョン内の壁を壊す、ここまでは割とよくある事である。しかし、このダンジョンの壁は再生せず砕け散ったまま何も起きない。


 その代わりに一つの新たなる壁のようなものが出てきた。


「大当たりって事か」


 運がいいのか悪いのか、それは壁ではなかった。


 扉、妙にうねうねした気色の悪い彫刻が施された奇妙な石扉でだったのだ。


「もしかして、これが噂のダンジョンボスって奴か。実在したのか」


 そう、200年と少し前、ダンジョンがこの星に出現した際、地上に溢れ出るモンスターの大半を駆除して内部に侵入、無限とも思えるほど湧いて出てくるモンスターを屠り続けた男は初めて見た。


 モンスターの出現が落ち着き、探索し、いくら潜ろうと見つける事ができなかった『大ボス』の居場所。


 最近ようやく入手した端末によって情報は収集していた。政府や野良のウェブサイトにも載っていたのは確認していた。


 だが、彼はあまりにも長く地上と隔離した生活を送っていたため、それが事実かどうかつい最近までは決められなかった。


 何故か?ずっと1人だったからである。


 『教祖』やその他関係者と拠点に設置してある黒電話にて会話することはあるが、そういった情報はほとんど仕入れていない。


 本来の目的はこの深層から地上へモンスターを通さない事。と言うよりダンジョンから出る素材で実験する事がメインに移行していたので潰すつもりはあまり無かったからこそ聞く必要がなかったのだ。


 彼をよく知る面々も、そのことを知っていたため放置していたとも言える。


「さて、これはどうするか」


 いわゆるボス部屋を意外な形で見つけてしまったケンは顎に手を当てて考える。


 もしかしたら、この部屋に入れば自分とダンジョンボスのどちらかが死ぬまで出られないかもしれない。だが、そんな壁を突破して出ようと思えば出れると思えていたりもする。


 やはり、彼は色んな意味で規格外である。本人もその事を自覚しているため自分が死ぬという考えが出ていないとも言える。


 だから、好奇心が勝った。


「ここが潰れたら、地上の奴らは何て言うんだろうな」


 その扉に両手を当て、ゆっくりと押し開く。力を込めすぎたら砕けてしまい、また消えそうな雰囲気を出していたため彼なりに優しく、ゆっくりと。


 ダンジョン深層に潜入して200年少々、人生初のダンジョンボスへ挑む…………のかもしれない。


 そんな僅かな期待を胸に、ケンは少し開いた扉の中へ滑るように入って行った。


 その後に残るのは、タコ型モンスターの死骸だけであった。


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