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タイトルとかとか、いただいて書きました。

FF外から失恋しました。

 



 ふと覗いたSNS。

 いつもはフォローしている人の呟きを見たり、反応したりするくらいで、リツイートは流し見程度なのに。

 この日はなぜか大量にあるリツイートのひとつに目を奪われてしまった。


「あ……(ひろし)


 高校時代に付き合っていた元彼のウェディングフォト。

 ツーブロックの七三ヘアーでぴっしりと固め、とても美人な花嫁さんと幸せそうな笑顔の写真。

 結婚式場の宣伝としても使われているようだった。


 高三の時に些細なことで別れてしまい、二五歳になった今でも少しだけ心残りがあった元彼。

 七年も(いだ)き続けていた淡い想いは、この瞬間に霧散した。




「早絵ちゃん、なんか元気ないね?」

「あ、小山さん」


 仕事場の先輩である小山さんが心配そうに声をかけてくれた。

 昨日のリツイートを見てから、なんとなく眠れずにベッドの中でゴロゴロとしているだけだった。

 うっすらと出来てしまったくまを化粧で誤魔化したけど、上手に出来てなかったかな?


「俺、話聞こうか? 仕事帰りにどっか飲みに行こうよ」


 小山さんは悪い人ではないと思うけれど、下の名前で呼んできて、妙に距離感が近すぎる。

 それに、こんな感じでよく女性社員を誘っているのを見かけるので、なんとなく行きづらい。

 感謝だけはしっかりと伝えて、柔らかく断った。




 仕事が終わり、自炊する元気もないし飲みたい気分なのでどこかで外食をしようと駅に向かった。

 小山さんの誘いを断った手前なんとなく後ろめたくて、電車に乗って三駅ほど行ったお店に行くことにした。

 そっち方面は、知り合いに会わなさそうだったから。


 電車を降りて、見繕っていたお店に向かう。

 最近出来たらしいスペイン風のバル。

 落ち着いた雰囲気で、バーテンダーさんもいるらしい。

 こういうごちゃ混ぜ感は日本特有だなぁと思いつつ、お店の扉をゆっくりと開いた。


「いらっしゃいませ」


 落ち着いた大人の雰囲気で、静かに食事をしたりお酒を嗜んでいる人ばかりだった。

 なんだか落ち着けそう。そう思いながらカウンターに座った。


 低い声が妙に色っぽいバーテンダーさんからメニューを受け取り、ひとまずサングリアとチーズの盛り合わせを頼んだ。


「おまたせいたしました」


 ぼーっと軽食類のメニューを眺めていたら、バーテンダーさんが先程頼んだサングリアとチーズの盛り合わせをカウンターの上に置いた。

 そして、先程頼んでいないはずの、生ハムの盛り合わせも。


「へ?」


 バーテンダーさんの顔をしっかりと見て、ハッとした。

 どこかで見た顔。懐かしいようで、昨日見たような。


「紘?」

「……俺のおごり」


 夕食時だったこともあり、他のお客さんも多くいたので、彼はそれだけを小声で言うと仕事に戻ってしまった。


 サングリアを三杯と軽食を食べ、そろそろ帰ろうかと会計を頼もうとしたとき、紘が温かいコーヒーを出してきた。


「これ飲んでから帰りなよ」

「え、ありがとう」

「その…………久しぶりだな?」

「……うん」


 昨日写真を見てしまったから、久しぶり感はないけれど、懐かしくはある。


「あ、昨日ね、写真見たんだ。結婚したんだね、おめでとう」


 食事しながらお腹の中でグルグルと考えていたセリフと表情。

 上手くできたかな?


「ん? あ! あぁ――――」

「昨日ね、SNSで結婚式の写真が流れてきててね、FF外だったから、探して言うものなって思ってたんだけど……まさかこんなとこで会うなんて…………」


 紘が何か言おうとしていたけれど、色々と言い訳を並べ立てていた。

 そして、なぜか『運命』とか『奇跡』みたいな言い方をしてしまいそうで、続きを何も言えなくなった。


 間違いなく、紘がここにいることなんて知らなかったし、何ならFF外から巡ってきた情報で失恋したから、会いたくなんてなかった。

 なのに、まるで紘を探し出してここに来たみたいに受け取られそうで。そんなことをする元カノとか、怖いヤツ以外の何でもないと思うし。


「あれなー、結構拡散されちゃったんだよね」

「ん? 式場に使用許可出してたんじゃないの?」

「去年のヤツなんだけど、撮影日に新郎のモデルが事故ってさ、姉ちゃんに呼び出されたんだよ」


 意味がわからない。

 撮影? モデル?


 よくよく聞いてみると、紘のお姉さんが式場で働いていて、急遽呼出されモデルにされてしまったらしい。

 既に今年用の新しい写真が作られているが、なぜかつい最近になって友人たちにバレてしまい、バラ撒かれているそうだ。


「え、じゃあ結婚してないの?」

「………………嬉しそうだね?」


 紘が妙に勝ち誇ったような顔でにっこりと笑って、首を傾げた。


「っ!」


 そんなに、顔に出ていただろうか?

 飲みすぎた?


「結婚もしてないし、彼女もいないよ。早絵は?」

「…………してない………………いない」

「あと、一時間、待てる?」

「っ…………ま……てる」


 紘がまたにっこりと笑って、追加のコーヒーを淹れてくれた。飲んで待ってるように、と私にだけ聞こえるように囁いて。

 



 FF外から失恋したけれど、なんだか新しい恋が始まりそう。

 



 ―― fin ――




閲覧ありがとうございました!


ブクマや評価までも、ありがとうございます!

作者小躍り中です(∩´∀`)∩ワーイ

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんてドラマチックなのでしょう! 短編なのにどっしりと作り込まれていて、ヒロインの心情に涙を浮かべながら読ませていただきました。 笛路先生の作品はどの作品も大好きです。
[良い点] 素敵でした。 こういう短編大好きです。 作者様は色々な彩りをお持ちですね。 他のお話も楽しみです。
[一言] なんて素敵なお話……! 失恋つらいよね……相手が結婚してたらもうどうしようもないよね……と思いつつ読んでいたら、まさかの結末になんだかこちらも嬉しくなっちゃいました。 ふたりとも心残りがあっ…
感想一覧
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