散歩の九百二十二話 グロー伯爵を起こします
王太子様の指示で、先に押収物を出してくれということになった。
種類別に出した方がいいと思ったので、僕とアオは地面に敷かれたシートの上に分類して押収物をアイテムボックスから取り出しました。
ドサドサドサ。
「「「おおー、金ピカだー!」」」
「まさか、こんな物が出てくるとは。呆れて物が言えんな」
不正を示す書類の量も凄いけど、何よりも凄かったのが金品や豪勢な服などの山でした。
ちびっ子達は目の前に積み上がった金品の山に興奮していて、王太子様はとんでもない物が目の前にあると溜息をつくばかりでした。
僕が王太子様の立場だとしても、きっと溜息をつくでしょうね。
そして、軍の施設に追加でやってきた人も、この金品の山を見て呆れかえっていました。
「はあ、何も言えんのう。馬鹿のやる所業としか思えん」
追加でやってきたのは、何故か赤い軍服を身をまとって剣を腰から下げている王妃様でした。
スーや僕と到着の挨拶をしたりホーネット男爵を労ったりしていたけど、やはりこの金品の山が気になっていたみたいです。
そして、王妃様はガード君とレンちゃんにニコリとしながらある事を話しました。
「ガードにレンよ、そなたたちの祖父はこうして立派に国のために働いておる。しっかりと覚えておくのじゃぞ」
「「はい!」」
「恐れ入ります」
王妃様としても、僕とスーと共にホーネット男爵が活躍したのを二人覚えて欲しかったのだろう。
実の父親は最悪な事をしたけど、母方の祖父は違うのだぞと言いたいのでしょうね。
ガード君とレンちゃんも、おじいちゃんがこれだけの金品の押収を手伝ったと知って目を輝かせていました。
そして、王妃様がある命令を僕とアオに下しました。
「シュンとアオよ、奸臣を妾と息子の前に出すのじゃ。奸臣を置くのに、シートなどいらぬ。地べたのままでよい」
「畏まりました」
僕とアオは、王妃様に臣下の礼をしてから念動で幌馬車にいるグロー伯爵と関係者を運び出しました。
勿論、王妃様の指示通りに地面に寝かせます。
「「「ぐごー、ぐごー」」」
これだけの事がありながらも、グロー伯爵と関係者は爆睡していました。
グロー伯爵のいびきが物凄く煩いけど。
「化け物みたいなイビキだよ」
「ジェフよ、それは化け物に失礼じゃ」
何だか孫と祖母の面白いやり取りがあったけど、逆にこのグロー伯爵のいびき声を合図にぞろぞろと軍の幹部が集まってきました。
そして、グロー伯爵と関係者を取り囲む様に並びました。
「では、スーよ、この馬鹿どもを起こしてやるが良い」
「畏まりました」
これまたスーが綺麗な臣下の礼を取り、聖魔法の一種である覚醒魔法をグロー伯爵と関係者に放ちました。
シュイン、ぴかー。
「ぐごー、ぐっ……うん?」
グロー伯爵から聞こえてきた豪快ないびきが止んだと思ったら、辺りを見回しながら目を覚ましました。
そして、僕と目が合ったのです。
「おい、ガキが! 俺様を縛る縄を外しやがれ!」
グロー伯爵は、周囲の状況が理解できていないのかギャーギャーと大騒ぎしていました。
何とも滑稽な光景ですね。
そんなグロー伯爵に、一歩歩み寄った者がいました。
ザッ。
「グロー伯爵、随分と気持ちよく寝ていたみたいじゃのう」
「うん? あ、あ、あーーー!」
グロー伯爵は、王妃様のニヤリとした表情を見るなり顔を真っ青にしながら絶叫したのです。
グロー伯爵にとって、一番会いたくない人の一人ですよね。
でも、本当の地獄はこれからですよ。




