散歩の九百八話 不審な言動
「王国王女、スーザンです。先ずは、いきなりお尋ねした非礼をお詫びいたします。しかし、事は急を要することでしたのでご了承下さいませ。何せ、ここ数回補助金申請が不備で出し直しになっておりましたので」
「それはそれは、真に申し訳ありません」
スーが努めて丁寧に話をしたのだけど、グロー伯爵は何だかまともに受け止めていなかった。
調べてみたら、今回の件だけでなく過去数回補助金申請書に不備があって出し直しになっていました。
その全てが、補助金申請の数字を書き出すなど明らかにおかしい物でした。
そして、決定的におかしい態度を取った瞬間が訪れました。
「ヴィクトリー子爵と申します。王太子様より調査の命を受けました。横にいるのが、シロ名誉男爵です」
「ホーネット男爵です。農務大臣より、調査を命じられました」
「ちっ……」
僕とホーネット男爵が自己紹介をすると、グロー伯爵は明らかに不機嫌な表情をしながら舌打ちをしたのです。
スーとの態度の差が余りにも酷いけど、どうやら上のものにはヘコヘコして下の爵位の者は見下す性格みたいですね。
スーもグロー伯爵の態度に思わず呆れてしまったけど、直ぐに気を取り直して手をうちました。
「ヴィクトリー子爵とホーネット男爵は、とても優秀な官僚です。陛下からも、調査に従うように命令が出ております」
「こ、これは申し訳ございません。平にご容赦を」
スーが毅然とした態度で陛下からの命令書をグロー伯爵に突きつけると、流石にグロー伯爵も頭を下げて従うしかなかった。
そして、スーがある命令をグロー伯爵に下した。
「王国王女スーザンが命じます。これより、補助金申請に関する財務調査を行います。グロー伯爵は、速やかに過去五年分の収支報告書を提出するように。法により収支報告書は十年間の保存が決まっていますが、先ずは五年分で構いません」
「か、畏まりました。直ぐに用意いたします」
バタン。
グロー伯爵は、ハンカチで汗を拭きながら直ぐに応接室を出ていきました。
なんというか、壮絶な茶番劇を見ていた気がします。
「はあ、久々に疲れる相手になりそうですね。この先の展開も、まともに行われない可能性が高いと思いますわ」
「私もそう思います。もし我々だけでしたら、爵位の差を理由にまともに取り合わなかった可能性が高いかと」
スーとホーネット男爵もやれやれといった感じだったけど、これからどんな資料が出てくるかとても楽しみです。
「あの人、悪い人だよ! 悪い人の臭いがしたよ」
そして、ずーっと黙っていたシロがグロー伯爵の事をようやく話しました。
スーも、シロの嗅覚の鋭さを知っているので、すぐさま王城に連絡を入れました。




