散歩の八百二十七話 続、料理教室
トントン、トントン。
「サマンサ、あんた相変わらず包丁さばきが下手くそね。切ったものの大きさが不揃いだよ」
「お母さん、集中しているんだから声かけないで!」
臨時の料理教室が始まって三十分が経った。
三人の包丁さばきは、若干だけど最初よりも良くなった。
母親である実行委員長の奥さんから見るとサマンサさんの包丁さばきはまだまだみたいだけど、緊張も少しほぐれた気がします。
そして、スーも回復魔法を使うための教室を開いていました。
シュイン、ぴかー。
「そうそう、いい感じに魔力制御が出来ていますわ。自信を持って治療しましょうね」
「はっ、はい!」
スーは、回復魔法が使えるフランくらいの女の子に治療の方法を教えていた。
帝国に出発する前に行っていた初心者冒険者向け講習に出ていた子で、普段は孤児院で暮らしているそうです。
女の子も、真剣な表情で並んでいる人の治療を行っています。
ちなみに、女の子はまだ小さいのでスーが王女様だとは分かっていないみたいです。
周りにいるシスターが女の子が失礼なことをしないかとハラハラしているけど、スーはそういうものは全く気にしないです。
シュイン、ぴかー。
「ねーちゃん、これでいいか?」
「問題ないぞ。この調子でどんどんと治療するぞ」
「俺、頑張る!」
孤児院からはシロくらいの犬獣人の男の子も治療班としてやってきていて、ディアナさんが色々と教えていました。
女の子の兄貴分として、男の子も真剣な眼差しで頑張っています。
剣士でサッパリした性格のディアナさんは、意外と面倒見もいいみたいです。
そして、交代で昼食休憩をすることになりました。
「「「疲れた……」」」
「あんたたち、本当に情けないねえ。シュンとアオちゃんなんて、圧倒的な量の料理を作っているよ」
料理教室も兼ねた仕込みの手伝いをしていたサマンサさんたち三人は、休憩に入った瞬間一気に疲労が襲ってきたみたいです。
実行委員長の奥さんが愚痴を言っても、三人は反応することはありませんでした。
ちなみに、炊き出し自体は問題なく進んでいて、三人も段々と野菜を切るのが上手になっていました。
「じゃあ、午後はお肉を切る練習をしましょうか」
「「「えっ……」」」
僕がサマンサさんたちに午後の料理教室の内容を伝えると、三人は聞いていないよという表情をしていました。
どうやら、料理教室は午前中で終わりって思っていたみたいですね。
「ははは、あんたたちも頑張れよ。あたしゃ、この子を教えないとならないからね」
「「「ズルい……」」」
ディアナさんは、豪快に笑いながら炊き出しのスープを食べている犬獣人の男の子の頭をポンポンと撫でていました。
サマンサさんたちは、今日一日治療班のディアナさんのことが羨ましいみたいですね。




