散歩の七十二話 東の辺境伯領に到着
「いやはや、なんとも楽しい夜じゃったのう」
次の朝、僕達は再び馬車に乗って東の辺境伯領を目指して出発した。
お爺さんは面白い経験だったと言うけど、僕は大変だったよ……
食中毒でお腹を下していた従業員は、朝までに回復していた。
治療に加えて食堂のキッチンも生活魔法で綺麗にしておいたから、食材に気をつければもう大丈夫のはずだ。
宿のスタッフからはだいぶ感謝されたけど、もう少し衛生的な知識を持って欲しいなあ。
森から川沿いの平原に出たので、僕達を狙う魔物とか危険な動物も少なくなり平和そのもの。
少し時間があるので、ちょっと気になっている事を聞いてみよう。
「お爺さん、もし知っていたら教えて貰いたいのですが、東の辺境伯領って人間と獣人の仲が悪いって聞きましたが本当ですか?」
「難しい問題なのじゃ。一部の人間と獣人との間で揉め事が起きているのは本当じゃ」
やはり南の辺境伯領で聞いた事は本当だったんだ。
お爺さんも、ちょっと考え込みながら話をしてくれた。
すると、獣人の旦那さんが補足してくれた。
「正確には、人間主義の連中と獣人の間だな。教会のトップが変わったら急に方針が変わってな、それに同調した一部住民が獣人に対する態度を大きく変えている」
「え、教会って人種に限らず平等なはずですよね?」
「嬢ちゃん、教会も勢力争いがあるんだよ。嬢ちゃんの言う平等な考えが普通だけど、人間主義の過激派もいるんだ」
スーは獣人の旦那さんの話にびっくりしていたけど、宗教内の対立ってのもこの世界にあるんだ。
となると、その教会のトップに着いた人物を支えているのがスポンサーなのかもしれないぞ。
「冒険者では、人間と獣人との間でいざこざは起きていない。しかし街中では、少し不穏な空気が流れているのは確かだ」
「僕達は人間と獣人のパーティなので、少し心配ではありますね」
「まあ、お前らなら大丈夫だろう。きっとどうにかする」
獣人の旦那さん、どうにかできるって適当に言わないで下さいよ。
お爺さんも、うんうんと頷かないの!
賑やかな馬車の旅も終わりに近づいた。
東の辺境伯領に、とうとう到着したのだ。
「うわあ、色々な人種の人がいるね」
「本当ね、こんなにも沢山いるんだね」
東の辺境伯領に着いたとはいえ、まだ領境の街だ。
だが、既に沢山の人種の人が街の中を歩いている。
獣人だけでなく、エルフやドワーフもいるぞ。
稀に天使族や悪魔族も歩いていた。
南の辺境伯領と違って、街並みも賑やかな感じだ。
そんな中、僕達の馬車は馬車ターミナルに無事に到着した。
「俺らは明日仕事してから領都に向かう。近いうちに会えるだろう」
「儂らも二、三日仕事してから領都に向かうぞ。お前さん達と会えるのを楽しみにしているぞ」
「はい、僕も皆さんと再び会えるのを楽しみにしています」
「バイバーイ、またね!」
獣人夫婦と老夫婦とは馬車ターミナルでお別れ。
とはいえ、皆近いうちに領都に行くらしいので、絶対に会えそうだ。
僕達も、今日宿泊する宿をとってゆっくりと休むことにしたのだった。