散歩の六百五十一話 謁見の始まり
その理由は、僕の側にいた南の辺境伯様が教えてくれました。
「あのご老人は、王妃様の父上のトリエンナーレ公爵だ」
「えっ、王妃様のお父さんですか? だから、僕の名前を知っていたんですね」
「私も会ったことがありますが、とても感じの良い人ですよ」
スーが太鼓判を押す人なら、何も問題ないでしょう。
では、改めて僕とシロは絨毯の切れ目まで移動します。
スーも自分の立ち位置に移動するけど、よく見たら宰相を始めとする閣僚だけでなく王族もスタンバイしていました。
だから、スーも直ぐに動けたんだ。
ちらりと見ると、王妃様も満足そうに僕に頷いていました。
そして、ざわざわとしていた謁見の間が係の人の声によりピタリと静まり返った。
「静粛に、陛下が入場されます」
全員が臣下の礼を取る中、近衛騎士の護衛を受けながら陛下が袖口から入ってきました。
そして、玉座に座ると、おもむろに口を開きました。
「皆のもの、面を上げよ」
陛下の声を聞いて、僕とシロも膝を着いたまま顔を上げました。
全ての貴族が顔を上げたタイミングで、陛下が厳かに話し始めました。
「まず、先ほどの急病人に対する治療について、シュンとスーザンは見事だった。謁見の間で魔法を使うなどというものもいるかと思うが、そんなものは時と場合による。まさに先ほどは非常事態だったといえよう。シュンに治療を要請した各辺境伯の判断も、見事であった」
実は、さっき治療を行った際に僕たちを睨んでいる視線があった。
陛下は、僕とスーに批判が飛ばないように先手を打ってくれたんだ。
そして、陛下はそのまま話を続けます。
「昨年は、各辺境伯領及び王都でも闇組織との大規模な戦闘が起こった。そして、闇組織と繋がり、自己の利益に目が眩んだ貴族の摘発も相次いだ。非常に残念だ。こうして新しい年を迎えられたのが、奇跡であると各貴族は自覚するように。王国のみならず王国民に害をなすもの、そして不正には厳しい態度で臨んでいく。各貴族においても、自己の利益に走らずに民のことを思う統治や政治を行うように」
「「「畏まりました」」」
陛下が厳しい声で訓示を行うけど、これは闇組織に繋がっている貴族への牽制も入っているでしょう。
特に、奇跡的に新年を迎えられたとの表現は、不正を行っている貴族は下手すれば今年中に檻の中に入るぞって言っている様なものです。
陛下が話しているので声を荒げるような人はいないけど、少し震えている貴族の気配も感じます。




