散歩の六百五十話 謁見の間で急患発生
「皆さま、お時間となります。ご準備をお願いいたします」
「はーい!」
そしていよいよ時間となり、出迎えてくれた係の人にジェフちゃんが元気よく手を上げました。
今日は新年という事もあるので、アナ様とジェフちゃんも謁見に参加するそうです。
もちろん二人は王家側に並ぶのだけど、途中までは僕たちと一緒らしいです。
「アナ様、新年の謁見って時間がかかるものなんですか?」
「何もなければ、三十分もあれば終わるわ。二人の叙爵も、直ぐに終わるわよ」
こういう時って、かなり時間がかかるものだと思っていた。
そういえば、前世の学校の集会とかで、校長先生がもの凄く長い話をしていたもんなあ。
長い話だと貴族でも倒れるものとかも出そうだし、そこは配慮するみたいですね。
そして、アナ様とジェフちゃんと別れて、僕たちは謁見の間に通じる大きな扉の前に立ちました。
うん、とんでもない装飾とかがされていて、もの凄く豪華です。
一体この扉だけで、いくらかかっているんだろうか。
前世でも元は一般庶民だったので、凄く気になってしまう。
さて、今のうちに復習をしておこう。
「シロ、絨毯の切れ目まで歩いていって、そこで膝をつくんだよ。後は案内があるからね」
「分かった!」
事前にどうすれば良いかは聞いているけど、そこまで難しいことはありません。
偉い人が沢山いるので、間違いなく緊張すると思いますが。
係の人が僕とシロの名前を呼んでから謁見の間に入るので、もう少し時間はあります。
因みに、既に貴族は謁見の間に入っていて、爵位やグループごとに並んでいるそうです。
ギギギギ。
「「あれ?」」
さて、そろそろかなと思ったら突然謁見の間の扉が開きました。
予想外の展開に、僕とシロも顔を見合わせてビックリしちゃいました。
しかし、目の前にいる沢山の貴族が一点を見てざわざわとしているのが気になります。
すると、僕の数少ない貴族の一人の西の辺境伯様が僕とシロを手招きしてきました。
「シュン、こっちに来てくれ。急患だ!」
これは不味いと思い、僕とシロは人だかりのところに走って行きます。
すると、白髪頭の年配の貴族当主が、胸を押さえながら苦しそうにうずくまっていました。
「ぐっ、ぐぐ……」
「大丈夫ですか? 直ぐに治療します」
「おじいちゃん、しっかりして!」
僕は老人に魔力を流して体調を確認すると、胸だけでなく全身に淀みが見られました。
僕一人で助けられるかなと一瞬思ったけど、できるだけのことをやろうと思いました。
シュイーン、ぴかー!
「うっ、うう……」
最低でも胸の淀みだけでもどうにかしようと思ったけど、老人は予想以上に重症だった。
アオがいれば全然大丈夫なんだけど、流石に王宮前広間から呼ぶのは無理がある。
このままでは魔力を使い切ると思ったら、治療を手伝ってくれる人が現れました。
「シュンさん、私も手伝います」
「スーか、助かった!」
「スーお姉ちゃん!」
すっかり治療の名手となったスーが僕の横にやってきて、強力な聖魔法を放ちました。
僕がある程度治療していたのもあったけど、老人の顔色はみるみる良くなりました。
「ふう、これで大丈夫です。シュンさんが治療してくれたお陰で、私でもどうにかなりました。お加減は如何ですか」
「はあはあ、すっかり良くなったよ。流石はスーザン殿下とシュンだ。凄腕の魔法使いなだけあるぞ」
老人は体力を使ってしまったのか少し疲れていたけど、明らかに表情は良くなった。
そして、近衛騎士によって担架に乗せられて搬送されていった。
あれ?
そういえば、何であの老人はスーの名前はともかくとして僕の名前を知っていたんだ?




