散歩の六百十話 いよいよヴィクトリー男爵家を出発
そして、昼食後になったのでいよいよヴィクトリー男爵家から新しい屋敷に移る時間になりました。
僕たちは荷物をまとめて、玄関前に集まりました。
スーはというと既に涙が止まらない状態で、ヴィクトリー男爵家の人々と抱擁を交わしていました。
「叔父様、お義兄様、お義姉様、幼い頃から本当にお世話になりました。ここまで成長できたのも、皆様のおかげです」
「スー、そんな今生の別れみたいなセリフはよしてくれ。まだ嫁に行くわけでもないし、ご近所さんになるだけじゃないか」
「そうだよ。少なくともあと三年は結婚しないし、私たちがスーのところに遊びに行ってもいいんだよ」
「スーも、ケインの様子を見にきて下さいね。日に日に大きくなっていきますわ」
僕もガンドフさんの意見に同感だけど、馬車で数分のところに行くのだから実家に遊びに行っても泊まりに行っても問題ないと思うなあ。
実際に、何回か実家に荷物を取りに戻らないといけないわけだし。
ケインちゃんの成長の度に、みんなで集まることになりそうですね。
すると、ガンドフさんが僕に近づいてきました。
「シュン、スーをよろしく頼むよ」
「はい、お任せ下さい」
僕とガンドフさんは、がっちりと握手をしました。
何か勘違いしそうなセリフだけど、特に問題ないと思いたい。
シロたちも挨拶をして、馬車に乗り込みます。
「「「「いってきまーす!」」」」
「ああ、行ってらっしゃい」
「気をつけるんだよ」
「遊びに行くわね」
こうして、僕たちはヴィクトリー男爵家を出発しました。
そして、スーの涙が渇かないうちに、あっという間に新しい屋敷に到着です。
うん、やっぱりご近所さんでとっても近いですね。
スーも涙を拭いて、馬車から降りました。
すると、執事服を身に着けたワイアットが僕たちを出迎えました。
「皆さま、お帰りなさいませ。スーザン殿下、お客様がお見えになっております」
「お客様? 誰でしょうか?」
屋敷に着いていきなりお客様が来ているとは、スーだけでなく僕たちも予想外でした。
誰だろうと思いつつ、ワイアットが応接室に通しているのを考えると僕たちの知り合いなのは間違いなさそうです。
僕たちは、急いで応接室に向かいました。
「スー、やっほー」
「ちゃんと挨拶はできたかな?」
応接室にいたのは、スーの幼馴染のケーシーさんとテルマさんでした。
何だか気楽な挨拶をしてきたので、僕たちは思わず脱力しちゃいました。
「どうせスーの事だから、大泣きして出てきたんじゃないかなと思ったのよ」
「目元が赤くなっているのを見ると、結構泣いたみたいね」
「ケーシー、テルマ……」
あらら、幼馴染の気配りでまたスーが泣いちゃった。
とはいえ別れの涙ではないし、ケーシーさんとテルマさんもスーの事を苦笑しながら慰めていますね。
「お菓子美味しいね」
「おいしー!」
「もしゃもしゃ」
「パクパク」
問題ない涙なので、シロたちの興味は出されたお菓子に向いていました。
そしてスーはというと、いつの間にか泣き止んで屋敷に来た最初の来客と楽しそうに話をしていました。




