散歩の五百九十九話 頑張ったアオ
産声を聞いてから十分後、助産師のシスターさんが応接室に入ってきました。
準備できたかなと思ったら、そうではありません。
「スー様、申し訳ないですが先に来て頂けますか?」
何だろうか?
スーも助産師が少し戸惑った表情をしているので、何が起きたのかと思っていた。
でも、一大事が起きている訳ではないので、それは大丈夫だという。
更に十分後、ようやく僕たちの入室が許可された。
僕たちの入室が遅れた理由は、スーが教えてくれた。
「その、赤ちゃんは普通よりも大きくて少し難産だったらしいです。それで、アオちゃんがずっと回復魔法をかけてくれてました。疲れたアオちゃんに代わって、私がお義姉様に回復魔法をかけました」
「そ、そうか。アオちゃんには苦労をかけたな」
ブラッドさんは、セーラさんの傍らでへんにゃりとしているアオに声をかけていた。
アオが頑張ったお陰で、赤ちゃんもセーラさんも助かったというわけですね。
アオは少し回復したのか、ブラッドさんに触手をふりふりとしていた。
「セーラ様はだいぶ体力を消費しておられます。暫くは、栄養のあるものをあげてください」
「もちろんです。シスターにも、本当にお世話になりました」
ガンドフさんは、シスターさんに労いの言葉をかけていた。
ちなみにこのシスターさんは悪魔族で、助産師としてとても有名な人だそうです。
セーラさんは疲れて寝てしまっているけど、こればっかりは仕方ないですね。
「あうあう」
「おお、髪の毛がブラッドさんそっくり!」
「フランの事を見ているよ」
「ちっちゃいね!」
「可愛いね」
赤ちゃんの寝ているベビーベッドのまわりにはシロたちが集まっていて、興味深そうに赤ちゃんを見ていた。
赤ちゃんは男の子で、ヴィクトリー男爵家特有の濃い青の髪の毛だった。
本来なら赤ちゃんの誕生を祝ってお祝いをしたいところだけど、セーラさんも疲れているので世話の侍従を残して応接室に戻った。
シスターさんも、後片付けをして帰るそうです。
「アオには本当に感謝をしないとならないな。逆を言うと、アオが疲れる程の難産だったんだ、母子とも命が危うかった可能性もあるだろう」
ガンドフさんが改めてアオに礼を言ったけど、アオも大丈夫だと改めて触手を振っていた。
ブラッドさんも、アオに頭を下げていた。
「祝い事をしたいが、数日はセーラの体調の回復次第だ。スーも治療してもらう可能性はあるぞ」
「もちろんです。明日朝、さっそくお義姉様の様子を見に行きます」
数日は、僕とスー、それにアオの誰かが屋敷に残った方が良いでしょう。
いずれにせよ、赤ちゃんが誕生して良かった。
「ふみゅ……」
「「「眠いよ……」」」
そして、緊張の糸が切れたのか、シロたちが目をこすり始めていた。
ガンドフさんとブレッドさんも、緊張から解放されてだいぶ疲れていた。
僕とスーも疲れてしまって、結構ヘロヘロです。
今晩はこれで解散となり、明日朝改めて様子を見ることにしました。




