散歩の五十五話 後悔と絶望
「済みません、到着が遅れました」
「いや、予定よりも早いだろう。済まないがやる事が沢山あるぞ」
僕達が一息ついている所に、元々追加で来る予定だった兵がやって来た。
僕達が戦った後の惨状を見て、どの兵もビックリしている。
「な、何だこの惨状は」
「物凄い数のゴブリンだ」
「ゴブリンジェネラルまでいるぞ」
とんでもない数のゴブリンが倒れていて、辺りは血生臭い匂いもしている。
そんな中、僕達はせっせとゴブリンを解体して魔石と討伐証明を剥がしていく。
解体したゴブリンは、アオがせっせと消化していった。
「ゴブリンの本隊は討伐したが、まだ森の中にいる可能性がある。また、魔法使いの少女が一人行方不明になっている。討伐と併せて捜索を行う様に」
「「「了解しました」」」
「あと、厳重に拘束している魔法使いは重要参考人だ。地下拘置所へ直ぐに護送する様に」
「「「直ぐに護送します」」」
ギルドマスターが手早く指示を出して、兵がそれぞれ動き出す。
「僕達は、このままゴブリンの解体を続けて良いですか?」
「そちらも急ぎで頼む。血の匂いに誘われて他の魔物が寄ってくるのを避けなければならない」
僕達も結構疲れているが、そんな事は言ってられない。
「とー!」
「ちっ、もう来やがったか。鼻の良い奴らめ」
現に早速オオカミが何頭か血の匂いに誘われてやってきたのだ。
直ぐにシロや他の冒険者によって倒されていくが、他にも魔物が来るかもしれない。
丸ごと素材になるゴブリンジェネラルを除いて、急ピッチで解体していく。
アオも心なしかゴブリンを消化する速度が上がっている気もする。
「ふう、ようやく片付けられましたね」
「オオカミもいっぱい獲れたよ」
結局全てのゴブリンの解体が終わるのに一時間もかかったので、その間にやってきたオオカミも沢山討伐した。
思わぬ副収入になったけど、そんな事は言ってられなかった。
「魔法使いの少女が見つかったぞ!」
「担架とシーツを持って来い」
森の中から兵の声が聞こえてきた。
行方不明になっていた、あの魔法使いの少女が見つかったという。
しかし担架と共にシーツが運ばれたので、生きている事はなさそうだ。
ふと、バクアク伯爵の三男に目を向けると、生気のない目をこちらに向けていた。
担架に乗せられたシーツに包まれた遺体が運ばれてきた。
すると、ギルドマスターがスーに向けて話をしていた。
「色々思う所があるかもしれないが、シーツ越しで良いので生活魔法をかけてやってくれ。同じ女性として、余りにも不憫だ」
「分かりました。直ぐに行います」
ギルドマスターの言葉を聞いただけで、遺体はゴブリンによって凄惨な状況になっていたのだろうと直ぐに理解した。
スーもギルドマスターに頷くと、念入りに生活魔法をかけていく。
そして、ギルドマスターは遺体を包んだシーツをぼーっと見つめているバクアク伯爵の三男に話しかけた。
「冒険者は名誉を求めて動く事があるが、自信過剰になってはいけない。其方は虚栄心に駆られて、愛する人を無惨にも亡くしたのだぞ」
「あ、ああ、ああー!」
三男は嗚咽が止まらなかった。
目の前の遺体を見て、ようやく後悔の念が湧いたのだろう。
しかし、もう何もかもが遅い。
亡くなった人はもう帰らないのだ。
嗚咽が止まらない三男は、遺体と共に兵に連行されていった。
「あの二人は愛し合っていたんですね」
「そうです。しかし、実は兄妹でもあります。それでも愛し合っていました」
「それは、兄妹愛ではなく恋人としてですよね?」
「はい。あの三男は正妻の子、そしてカラミティ様は側室の子になります」
スーが色々と教えてくれたけど、実の兄妹で愛し合っていたとは。
一体どういう状況なのだろうか。
ギルドマスターが補足してくれた。
「いわゆる血の純血を保つ意味で近親婚が行われる事がある。特に古い貴族は貴族は特別なものと思っているからその傾向が強い。正直な話、馬鹿馬鹿しい事だ。しかしながら、古い貴族であるバクアク伯爵はそれを望んだ。しかも、二人の相性も良かったのもあるのだろう」
僕は兵によって運ばれる二人を見て、なんだかやるせない気持ちになっていた。
二人のやった事は許されないけど、二人も古い慣習の犠牲者なのかもしれない。




