散歩の五十三話 膠着状態?
「ふふふ、まさかこれ程の数のゴブリンが全滅するとは。とんだ誤算でしたわ」
不機嫌な表情をしながら、女性が僕達の方に近づいてくる。
話し方から推測するに、ゴブリンをけしかけたのはこの女性で間違いないだろう。
「レッドスコーピオンでも、予想外の失敗という訳ですか」
「流石はギルドマスター、そこまで調べてあるとはね」
きっとギルドマスターはカマをかける意味で聞いたのだろうけど、女性は機嫌が悪いのもあってか、あっさりとレッドスコーピオンの一味だと認めていた。
「もしかして、ここにいるバクアク伯爵の三男をゴブリン退治にけしかけて、村を襲った後に街に向かわせる気だったのでは?」
「おやおや、坊やにも分かってしまったか。まあ、元々あのバカとは比較にならない程に頭が切れるとの噂だったな」
僕が頭の中で思いついた事を話すとどうもビンゴだったらしく、女性は苦々しい表情になっている。
ここで僕はもう一つの疑問を女性にぶつけてみた。
「もう一人の魔法使いはどうした?」
「さてね。ゴブリンの慰み者になっているか、はたまた既に胃袋の中か。どっちかな、ふふふ」
「あっ、ああ!」
話し方から、恐らく森の中に放置されたのだろう。
というか、女性の話を聞いて、バクアク伯爵の三男が頭を抱えて震えているのが何よりの証拠でもある。
「全ての企みが防がれたのだ。大人しく縄につくがいい」
「ふふ、私は諦めの悪い女なの。このまま大人しく引き下がるとお思いで!」
「拙い、全員防御体勢を」
「「「ぐわあー!」」」
女性の周辺を中心として、突如大爆発が起きた。
僕達は何とか魔法障壁を張ったり、防御体勢を取ったから爆風をやり過ごせたけど、何人もの人が吹き飛ばされたばかりか、村の建物にも被害が出てしまった。
「「はー!」」
ガキン!
「流石はギルドマスターといったところか。猫耳とスライムも、ゴブリンジェネラルを倒していたな」
爆発で生じた土煙を引き裂いて、ギルドマスターとシロとアオが女性に向けて突っ込んでいった。
女性は魔法障壁を張って防御しているが、一瞬怯んだ様だ。
「離れて下さい!」
バリバリバリ!
「ぐっ、何という威力だよ。坊やは一流の魔法使いか」
隙を狙って魔力を溜めた雷撃を放つ。
女性は僕の事をニヤリとしているが、僕が放った魔法を防がれる事は折り込み済みだ。
「攻撃の手を休めないで下さい」
「はっ!」
「えーい!」
「くっ、しつこい。一撃も重いな」
女性に攻撃をさせない為に、ギルドマスターとシロとアオが女性から離れずに攻撃している。
三人が放つ一撃はかなり重く、女性も厚めの魔法障壁を張って凌いでいる。
「くそ、これでも……」
「させません!」
「ちっ、これでは攻撃できないぞ」
三人に向けて魔法を放とうとしても、僕が牽制で魔法を放って女性を自由にさせない。
一見すると膠着状態だが、実は僕にはとある考えがあった。