散歩の四百五十八話 大量殺人容疑
ある程度落ち着いた所で、僕は兵にある事を聞いた。
「皆さん、何で領主を捕えるという危険な行為をしたのですか?」
「勿論、お館様のこれ以上の暴走を止める為です」
暴走という事は、ブローカー伯爵夫妻が何かをしようとしたんだ。
兵は、そのまま僕達に話を続けました。
「守備隊の予算横領や侍従への給与未払いは、常に発生していました。違法奴隷を購入して、好き勝手になぶるためです。特に人族以外が選ばれていました」
「そ、そんな。酷い……」
淡々と話す兵の話を聞いたスーは、思わずブローカー伯爵の方を見ながら絶句していました。
クエーサーさんも、ブローカー伯爵を汚物を見る様な眼差しで見ていました。
何となく分かったけど、ブローカー伯爵とその家族は自分よりも立場が弱い者に対して態度が大きくなるんだ。
「残念ながら、多くの者がお館様並びに家族の方により殺害されました。家人を含めると、ゆうに五十は超えます」
「ご、五十……。何という数なのだろうか……」
おいおい、大量殺人ってレベルじゃなくなったぞ。
あまりの数字に、僕やスーは勿論の事、クエーサーさんも絶句してしまいました。
そして、兵が話す間、ブローカー伯爵一味は黙り込んで全く反論しません。
「殺害された者は、全てリスト化しております。まだ言葉も話せない赤子を、まるで壊れたオモチャの様に弄んで笑っていた姿は、余りにも衝撃すぎて脳裏から離れられません。そして、何もできなかった私も許せません。ぐっ……」
「酷い、酷すぎます。何でそんな事を……」
兵の号泣を見て、スーも涙が止まりません。
僕とクエーサーさんは、腹の底から怒りを感じています。
こいつ等、人間じゃないぞ。
「そして、ブローカー侯爵家が完全に制圧されたのを知り、お館様は私達にある命令をしました。地下に幽閉している者全ての殺害と埋葬です。証拠を全て消した上で、逃走しようとしていました。この命令を聞いた瞬間、守備隊のみならず家人全てが反旗を翻しました。そして、タイミング良く皆様方が屋敷を訪れたのです」
うん、守備隊と家人が反抗するのも納得できます。
こいつ等は、人の命を軽視しすぎています。
まさに貴族主義の最たるもので、自分達は選ばれた人間だと思っているんだ。
更に、自分達だけ逃げようとしていたとは。
「スー君、悲しいですがこれが現実です。神より選ばれし者と盛大に勘違いしている者は、他人の命などどうでも良いのです。しかし、命は誰にでも平等です。この様な行為が許される事はありません」
「はい、肝に命じます。こんな悲しい事が、決して許されてはなりません」
「「「「……」」」」
クエーサーさんも、心が痛いだろう。
痛いのに、それでもスーに大切な事を教えていた。
そしてスーは、涙で真っ赤に腫らした目で、鋭い目で、四人を睨みつけていた。