散歩の百七十六話 突然の呼び出し
ペシペシ、ペシペシ。
「シュン、起きて起きて」
「お兄ちゃん、起きて」
うお、何だ何だ?
昨晩は強盗の件があったから、寝不足なんだよなあ。
頑張って目を開けると、僕に馬乗りになっているフランとホルンの姿があった。
「フラン、ホルン、一体なんだ? もう少し寝かせてくれよ」
「シュン、朝ごはん!」
「お腹空いたよ」
「あー、そういう事か。ちょっと待ってな」
僕はもそっと起き上がって、フランとホルンを下ろした。
昨夜の感じだと食堂なんて稼働してないだろうし、簡単な物を作っておくか。
「「すー、すー」」
因みに、スーとシロとアオは隣のベッドで未だに寝ています。
僕も朝食を作り終えたら、もう一寝入りしよう。
「そう思っていたんだけどなあ。ふわぁ」
「仕方ないですよ。ここの領主からの呼び出しですから」
ちょうど朝食を食べ終えた所で、兵が男爵が呼んでいるから屋敷まで行ってくれと申し訳なさそうに言ってきた。
くそう、もう少し寝れたはずなのに。
「でも、何だかあまり良くない事になりそうな気がするんだよなあ」
「あっ、私もです。念の為に、辺境伯様から頂いた紋章入りのコインを出せる様にした方が良さそうですね」
こういう時の直感って、当たりそうだから嫌なんだよな。
そんな事を思いながら、俺達は男爵領の屋敷に到着しました。
「お前らは中々優秀の様だな。俺の部下にしてやろう」
「「「「「あー」」」」」
屋敷の応接室に通されると、どかどかとヤクザっぽい男性が入ってきた。
このヤクザっぽい男が、男爵領の領主かよ。
そしてどかりとソファーに座ったと思ったら、とんでもない事を言ってきた。
僕とスーだけでなく、シロとフランとホルンも思わず固まってしまったぞ。
でも、僕は何となく読めてしまった。
こいつ、絶対にあの強盗や怪しい服装の男と繋がっているな。
「昨晩の事件を無かった事に、そういう事ですか?」
「何だ、話が早いな。そういう事だ」
僕が少し睨みながら領主に問いかけると、ニヤニヤしながら話を返してきた。
領主までクズなのかよ。
「お前は頭が切れるから、参謀に丁度良いな。うーん、そこの女は貧相な体つきだけど顔は良いから俺の女に」
ボキャン!
「はっ?」
「「「おおー」」」
おい、この馬鹿とんでもない事を言い出したぞ。
僕も怒り心頭だけど、それ以上にスーが怒ってしまった。
空になったティーカップを、無言で握りつぶしてしまったぞ。
何故かシロ達は、スーに向けて拍手しているけど。
仕方ない、ここであのコインを出すか。
すっ。
「何だ、このコイン。はっ、えっ、何で?」
おっと、馬鹿は僕がテーブルに出した東の辺境伯の紋章入りのコインを見て、何度もコインと僕達を見返していた。
段々と、馬鹿の顔が青くなっていったぞ。
「今までの話、無かった事にして下さいね」
「えっ?」
「今までの話、無かった事にして下さいね」
「はっ?」
スーがにっこりとしながら立ち上がって馬鹿に話かけるけど、まだ馬鹿は話が理解できていない様です。
しょうがない、少し脅しをかけるか。
バチバチ。
「えっ、えっ?」
僕はコインをしまうと、おもむろに立ち上がってにっこりとしながら左手に雷魔法を溜め始めた。
馬鹿は、流石に状況を理解して少し慌て始めた。
「僕達、こう見えて称号持ちの冒険者なんです。ちょっと本気を出したら、この屋敷は、ねえ?」
「あわわわわ」
僕がにっこりとしたまま怒気を纏った声を出すと、馬鹿は腰を抜かした様な格好になってかなり慌て始めた。
ここで、スーはにっこりしながらもう一回話します。
「今までの話、無かった事にして下さいね」
「はいはい、しますしますします。だから、屋敷を壊さないで下さい!」
「そう、それは良かったですわ。納得してくれて何よりです」
馬鹿は、ようやくドラゴンの尻尾を踏んだ事に気がついた様だ。
相当慌てながら、スーの言葉を肯定していた。
その話を聞いてから、僕も溜めていた魔力を解放した。
「シロ、フラン、ホルン、帰るよ」
「早く次の領地に行かないとね」
「「「はーい」」」
僕とスーは、シロ達に声をかけて応接室を出ました。
馬鹿は、真っ白に燃え尽きていました。
意外と見かけ倒しだったな。