散歩の百四十六話 スー宛の手紙
指名依頼も終わったので、僕達も宿に帰ろうとした時だった。
「どちらかというとスーかな? 北の辺境伯から手紙が来たので、屋敷まで来てくれないか?」
「はっ、はい。わざわざありがとうございます」
先代様がスーに話しかけていた。
次の目的地である北の辺境伯様から、スー宛に手紙が来たのか。
この後どうしようかなと思っていたら、シロがマヤさんとセラさんの手を掴んでいた。
「お屋敷に行くと、美味しいご飯が出るんだよ!」
「「えっ?」」
おい、シロ。
前にも言ったが、辺境伯様の屋敷は食堂じゃないぞ。
流石にマヤさんとセラさんも、シロの発言は何がなんだか分かっていないぞ。
「ふむ、なら新人冒険者も屋敷に来るか?」
「「いえいえいえいえ」」
先代様がマヤさんとセラさんに話を振ったけど、マヤさんとセラさんは全力で拒否をしていた。
流石に、二人がいきなり辺境伯様の屋敷に行くのは荷が重いかな。
という事で、マヤさんとセラさんは宿に戻り、僕達は辺境伯様の屋敷に行く事に。
因みに、他の冒険者も僕達についてきませんでした。
「これだな。見てくれ」
「はい、お預かりします」
辺境伯様の屋敷に着くと、僕達は応接室に通された。
そして、先代様がスーに北の辺境伯様からの手紙を手渡した。
早速スーは手紙を読むが、何やら表情が変わっていった。
スーは少し笑ってもいるが、一体どんな事が書いてあったのだろうか?
「この手紙ですが、確かに差出人と書かれた方は北の辺境伯様でした。しかし、手紙の内容は北の辺境伯様の娘から私宛となっております」
「おお、あの北の辺境伯が溺愛しているという娘の事か」
「どうやらフィーナは北の辺境伯様から私が東の辺境伯領にいる事を聞いたらしく、早く会いたいと書いてありました」
うん?
どういう事だ?
手紙を書いたのは北の辺境伯様だけど、手紙の内容は北の辺境伯様の娘様がスーに会いたいという事だ。
僕がよく分からない顔をしていると、スーが疑問に答えてくれた。
「あ、フィーナとは北の辺境伯様の娘になります。今年で八歳になります。私が王都にいた時に良く遊んでいたので、懐いてくれました」
「あ、そういえばスーは貴族の令嬢だった。すっかり忘れていたよ」
「まあ、シュンさんと出会った時からずっと冒険者活動をしていましたから、私の事を忘れてしまっても仕方ないですね」
「あの、スー、怒っている?」
「別に何も怒っていないですよ」
あー、スーが貴族令嬢だという事をすっかり忘れていたよ。
爵位の差はあるとはいえ、貴族令嬢同士の付き合いがあるのは納得だ。
というか、そのフィーナ様はスーの事を随分と慕っているんだな。
「とはいえ、私達はマヤさんとセラさんの事を見始めましたので、どこか区切りをつけてから北の辺境伯領へ向かいましょう」
「じゃあ、二人がFランクに上がるまでは様子をみよう。流石にEランクに上がるまで面倒を見るとなると、時間が掛かりそうだ」
「その方針で良さそうですね」
という事で、マヤさんとセラさんがFランクに上がるまでは面倒を見る事でスーと意見が一致しました。
辺境伯様からの指名依頼もあるし、一ヶ月もあればマヤさんとセラさんはFランクに上がりそうです。
手紙の確認はこれで終わりなのですが、折角という事で辺境伯様の屋敷で夕食を頂く事になった。
シロは勿論の事、フランとホルンも大喜びだった。
ある意味、シロの予想通りになってしまったぞ。