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散歩の百十四話 先代奥様の大立ち回り

 そして更に日が進んで、花見祭りも明日で終わりになろうとした日に事件が起きた。


「「「いらっしゃーい」」」

「ほほほ、すっかりと子ども達の店員姿が板に付いたのう」

「ええ、そうですわね」


 今日も元気よく子ども達が声掛けをしているのを見て、付き添いの先代様と先代奥様も目を細めている。

 子ども達の掛け声に今年からの新メニューの効果もあってか、屋台は毎日完売御礼。

 僕も料理に料理に料理にと、毎日忙しい日々を送っていた。


「はい、どうですか?」

「おお、すっかり良くなったよ。ありがとうな」


 治療班の方も順調に稼働しており、スーと共にホルンも治療を始めていた。

 小さな治癒師さんは街の人に大人気で、今もおじさんの腰を治療していた。

 毎日治癒魔法を使っていたので、ホルンの魔法の腕もいい具合に上がっていた。

 そんな治療班の所で、思わぬ事件が発生した。


「皆さんのお陰で、街の人も充分な治療が受けられたわ」

「いえ、私達も街の住民ですからこのくらいは当然です」

「奥様、弱きを助けるのは当然の事です」

「そう言って貰うと、とても助かるわ」


 先代奥様が治療班の所にやってきて、皆の労を労っていた。

 戦士のお姉さんとゴリラ獣人の格闘家のお兄さんは当たり前と言うけど、教会が機能不全のとんでもない状態なので治癒師の存在は辺境伯家にとってはかなり有り難い存在のはずだ。

 と、ここでアホな奴らがやってきたのだ。


「おーおー、お前らか。ここで治療をしていると言うやつは」

「お前らのせいで、教会の商売があがったりだ」

「少し大人しくしてもらおうか。なあに、二、三日動けなくなるだけだよ」


 治療を受ける人がタイミングよく途切れた所で、突然五人組の明らかに怪しい奴らがニヤニヤとしながら治療班のテントに近づいてきたのだ。

 全員が大柄で、如何にも怪しい風貌をしている。

 言動からしても、教会の手先だというのは間違いないだろう。


「うぅ、怖いよ」

「ホルンはお姉ちゃんの後に隠れていてね」

「うん」


 直ぐにスーは、ならず者に怯えるホルンを自身の背中に隠した。

 戦士のお姉さんとゴリラ獣人のお兄さんも、先代奥様を隠すように前に出た。

 しかしながら、先代奥様が更に戦士のお姉さんとゴリラ獣人のお兄さんを制して更に前に出たのだ。


「貴方達は、この様な行為を行い恥ずかしくないのですか? だからこそ、街の人は教会に向かわずにこの治療所に訪れるのですよ」


 先代奥様は、毅然とした態度でならず者に注意していた。

 しかし、ならず者は先代奥様に注意をされた事により、更に攻撃的になった様だ。

 一人のならず者が、懐から短剣を取り出して先代奥様に切り掛かったのだ。


「うるせー。黙れババア!」

「ふう、やはり納得してくれませんか。少し痛い目にあって貰いましょう」


 先代奥様はならず者の態度に溜息をつくと、最小限の動きでならず者が振り下ろした短剣を避けたのだ。

 そして、すれ違いざまにならず者の足に自身の足をかけて地面に転ばせた。


「ぐふ、何をす、ぐはぁ!」

「あなたには少し黙って貰いますね」


 そして先代奥様は地面に転がっているならず者の背中を踏みつけて、ならず者を沈黙させたのだ。

 先代奥様のあまりの早業に、ならず者達はぽかーんとしていた。


「流石は先代奥様だ。相変わらずの強さだ」

「これが先代様を支える奥様の強さか。噂に違いない」

「おお、おばちゃんってとても強いねー!」

「フランも悪い人を倒すよ!」


 冷静に動いていたのは、戦士のお姉さんと聖魔法を身に纏ってスーパーゴリラーマンモードになったゴリラ獣人のお兄さんだった。

 そしていつの間にか騒ぎを聞きつけたのか、シロとフランもこっそりと現れていた。


「や、やべー。これはマジでやべーぞ」

「おい、逃げる……」

「逃げられると思っているのか?」

「「ヒィィ」」


 ポキポキと拳を鳴らす戦士のお姉さんとゴリラ獣人のお兄さんを見たならず者は、今更になって喧嘩を売った相手を間違えたと理解した。

 だが、警備担当の冒険者が騒ぎを聞きつけてやってきていた。

 警備担当の冒険者も、拳を鳴らしながらならず者を睨みつけていた。

 これでならず者は、完全に包囲されて逃げる事が出来なくなった。


「皆さん、その方と色々とお話をしたいので話ができる程度にしておいて下さいね」

「「はーい」」

「うおりゃー! 覚悟しろ!」

「「「「うぎゃー!」」」」


 そして先代奥様の言葉にシロとフランが元気よく答えた所で、冒険者達はならず者に向かって一斉に襲いかかった。

 こうして、あっという間にならず者は冒険者達によって捕縛されたのだった。


「という事があってのう」

「いやいや、先代奥様を襲うとか大事件ではないですか」


 スライム焼きを食べながら、先代様が調理中の僕に話しかけてくれた。

 治療班の所が騒がしいなと思ったら、とんでもない事が起きていたようだ。


「それで、先代奥様は無事なのですか?」

「無事だからこそ、ここに儂がおるのじゃ。妻は儂よりも強くてな、妻がならず者をボコボコにしなくて良かったぞ」

「いや、それは笑い事ではないですよ」


 先代様曰く、先代奥様は小柄で細い体型なのだが格闘技の天才らしく、辺境伯領内では先代奥様の強さはかなり有名らしい。


「でも、そうなると教会は領地外のならず者を集めているのですね」

「うむ、その可能性は高い。念の為に領地を分ける所の巡回を強化させたぞ」


 早速先代様も対策を取っているという。

 後は、ならず者の尋問の結果次第ですね。

 因みに何人かの声掛けをしていた保護された子どもが先代奥様の勇姿を見ていて、先代奥様はあっという間に格好いいおばあちゃんと子ども達の憧れの的になったのだった。

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