散歩の千九十八話 馬鹿な聖職者からじっくりと話を聞き出します
「あなたは、仮に辺境伯領の聖職者となった場合、どのようなことをする予定ですか?」
「そんなもの、決まっているわ。人族以外の全ての人種を追い出してやる」
目の前の太った聖職者が放った馬鹿なことに、この場にいる全ての人の殺気が膨れ上がっていった。
この場でそんな発言をしない方がいいと思いますよ。
「でも、それは統治に関する話です。教会の役割ではありません」
「ふん。無能な辺境伯家を追い出せば済む事だ。ゲス枢機卿様がこの世を統一すればいいのだ」
おお、大きく出ましたね。
でも、辺境伯家の方々を目の前にしてその言葉は頂けません。
三人の猛者から、とんでもない殺気が出ていますよ。
しかし、この太った聖職者は三人から放たれる殺気に気が付いていないようだ。
「ゲス枢機卿は人神教の幹部をしているみたいですけど、世界統一をするつもりなのですか?」
「ゲス枢機卿様が、この世の全てをお救いになるのだ。しかし、王国はゲス枢機卿様の使者をことごとく捕まえやがって。なので、聖教皇国と同時に王国も救うことにしたのだ」
それって、王国に対する宣戦布告というかゲリラ行動を起こすという内容では。
話を聞いている自分も、思わず頭が痛くなってきたよ。
「更にいうと、あなたは教会を担当する司祭以上の格ではありません」
「ゲス枢機卿様が任命したのだ。何も問題はない」
もはや、教会のことなど無視しているんですね。
そういえば、王都で捕まえたゲス枢機卿の関係者も戒律など無視をしていた気がするよ。
「その、ゲス枢機卿様はどこにいるのですか?」
「聖都にいるに決まっているだろうが!」
なるほど、悪の根源は僕たちの目的地にいるんですね。
とりあえず、ここまで話を聞けたから大丈夫かな。
「陛下、教皇猊下、他に聞く事はありますか?」
「もう、ここまで聞けば十分だ。というか、これ以上話を聞くと耳が腐る」
「もう、聖教皇猊下にも話を伝えている。存分に罰を与えて、王都に送ってくれ」
でっぷりと太った聖職者は、通信用魔導具から聞こえた声を聞いてキョトンとしてしまった。
こっそり音声を王都に伝えていたのは、教会に入った段階で行っていた。
ということで、後はこのお三方にお任せですね。
ぽきぽき、ぽきぽき。
「お前らが信じている神への祈りは済んだか?」
「まあ、お前らの神はお前らを救ってはくれねえだろうがな」
「「「「「ヒィィィィ……」」」」」
先代様と辺境伯様は、拳を鳴らしながら敢えてゆっくりと太った聖職者へと歩み寄った。
既に太った聖職者の周囲は、多くの住民で何重にも囲まれていた。
「あっ、この群衆に紛れていた関係者は、全員アオが捕まえています。ついでに、周囲の確認もするみたいですよ」
「へぁ?」
敢えてアオには自由に動いて貰い、こっそりと関係者をノックアウトして貰った。
もう、これで太った聖職者の打つ手はない。
エミリア様も、悪魔の様な笑みを浮かべていました。
「ふふふ、覚悟する事ね。ああ、殺しはしませんよ。殺しはね……」
「「「「「ギャー!」」」」」
そして、教会内に誰かの叫び声が響き渡りました。
しかし、誰も声を発しているものを助けることはありませんでした。




