散歩の千九十四話 全部筒抜けです
色々とやり取りをして、あることの許可を得たのでまたまた僕は魔力を溜め始めました。
シュイン、バリバリバリ。
ドン!
「やめろー! 屋敷を壊す……あれ?」
また痩せていて坊ちゃん刈りの子爵が慌てて応接室の中に飛び込んできたが、その時には僕は魔力を拡散しています。
今回は雷魔法なので、音も派手だったかもしれないね。
さてさて、ここからが本題です。
早速子爵に座ってもらい、何が目的だというのか存分に喋ってもらいましょう。
「ふん、よく顔を出せたな。前回はよくも色々なところに言いつけやがって。おかげで、とんでもない恥をかいた。お前ら全員、俺に慰謝料を払いやがれ!」
おお、開幕から子爵はとても荒れていますね。
というか、前回も完全に自業自得だと思いますよ。
「私たちは、聖教皇国に向かう使節団です。いわば、国を代表している立場です。その私たちにこのような仕打ちは、国に対する挑発とも受け取れます」
「ふん、そんなもの関係ないわ。俺様を無視する方が大罪だ!」
うん、相変わらず調子のいいことを言っていますね。
でも、流石にその言い分はありえないと思いますよ。
「それで、僕たちをどうするつもりですか?」
「だから、慰謝料を払えって言ってるんだよ! 昨年得た金を全部寄越しやがれ!」
僕が軽くジャブを打つと、子爵は大振りのフックを返してきた。
だけど、そんな見え見えなことを言っていると、この人たちが怒りますよ。
「ふむ、子爵は前回の件もあるので執行猶予の身だが、そんな馬鹿なことを言っていいのかのう」
「えっ? ど、どこだ。誰が喋っている!?」
子爵は、突然聞こえてきた声にかなりビビっていた。
いやいや、子爵の目の前に置かれている通信用魔導具を見ないと駄目ですよ。
「ふむ、どうやら余のことも忘れたようだな。さっきから、ずっとお前の言動を聞いていたぞ」
「げー! へ、陛下!」
子爵は、ようやく自分の話が筒抜けだと理解したみたいだ。
敢えて分かりやすく通信用魔導具をテーブルの上に置いていたのに、それにすら全く気が付かないなんて。
「直ぐに、西の辺境伯領から軍を派遣する。逃げようとはしないようにな」
「はっ、はは……」
陛下の怒りに満ちた声に、子爵は腰を抜かしてしまった。
執行猶予の身でこれなんだから間違いなく王都送りになるだろう。
それだけのことをやったのだから、報いは受けないとね。
ということで、僕たちは馬車に戻りました。
「シュンお兄ちゃん、遅かったね」
「変な人がいたんだよ。それで色々とね」
「ふーん、そうなんだ!」
シロは、既に他のことに意識を切り替えていた。
僕たちも、直ぐに出発しましょう。




